外部からの流入経路に依存しない固定ファンをつかむ
有園:具体的に今、メディアのマネタイズには(1)広告モデル、(2)月額課金などのサブスクリプションモデル、(3)記事1本単位で販売するようなペイパービューモデル、の3つがあると思います。
代表的なのは(1)広告モデルか(2)サブスクリプションモデルですが、一見さんに頼っているとなかなか(2)サブスクリプションモデルにはならないですよね。逆に言うと、(2)サブスクリプションモデルを目指すことはつまり、媒体自体の固定ファンを獲得することになる。この状態になれるかどうか、見方などはありますか?
伊藤:流入経路を分析することで、どれだけ外部に依存しているかがわかります。SNSや検索、ニュースからの依存度が高いと、まだ固定ファンが少なく、新規獲得をしている状態と言えます。外部からの流入は重要ですし、メディアの立ち上がり期はほとんどがそれに依存する形になりますが、ずっとその状態だと(1)(2)(3)のいずれを目指すにも厳しくなります。
同じく、直帰率や滞在時間の調査も有効です。直帰率が高いほど、たまたま目にした1本の記事のみを開いてすぐ帰る人が多いことになりますし、滞在時間が短い場合も同様です。

有園:そうした場合は、媒体名すら認知していなかったりしますね。
伊藤:そうですね。ほとんどのトラフィックがニュースポータルなどを介して発生しており、その単発で終わっている。なので指標としては、直帰率や滞在時間とともに、1UU(ユニークユーザー)や1訪問あたりのPV数も有効です。UUやセッションあたりのPVが高いほど回遊していることがわかります。

8割を占めるロングテールの記事をいかに読んでもらうか
有園:回遊が多いほど、ブランド価値が高くなっているし、サブスクリプションモデルの可能性も開けてくるといえますね。
前段で、WebメディアはコンテンツによってPVの変動が激しい、という話がありました。理想は安定的に一定のPVを得ることですが、いわゆるバズった記事のみが突出して、他記事は比較すると低いとなると、同じメディアの中でも記事単位のPVの幅はかなり広くなりますよね。
伊藤:そうですね。たとえば「100記事で月間100万PV」の媒体があったとして、単純に割り算すれば1記事が1万PVを稼いでいることになりますが、実態は一部の人気記事が大半のPVを稼いでいることがほとんどです。2割の商品が8割の売上を支えているという「パレートの法則」が、Webメディアにも当てはまります。

有園:上位2割ほどの人気記事が、全体の8割のPVを稼いでいる、ロングテールの構造になっている、と。
伊藤:そうです。メディアのブランド力向上にいちばん大事なポイントは、バズっていない8割の記事のPVを高めることです。メディアには、記事単位ではトラフィックが少なくたとえ赤字であったとしても、やはりその媒体ならではの記事、一部の熱心なファンがいる書き手の記事があります。通常は人気の2割の記事で、人気がない記事の赤字をカバーしようと考えがちですが、もしテールの記事も黒字化したら、ビジネスの自由度が増しますよね。
有園:なるほど。そこに、前述のコメント欄などが役立つわけですね。
伊藤:そう思います。感慨深かった例だと、書き手の方が身内を遭難事故で亡くした経験を綴った記事にコメント欄を導入したところ、「私も同じ体験をした」と複数の読者がコメントして、とても温かい交流が生まれ、コミュニティ化していました。こうした代えの利かない場が重なっていくと、それもブランド力向上の一助になると思います。
有園:今日の伊藤さんとの対談を通して、収益化とブランド力向上の視点から、これからのメディアビジネスの道筋について議論を深めることができました。ありがとうございました。