クリエイティブとは、信じることである
「クリエイティブとは、信じることである」。真剣な小霜氏は、私にそう教えてくれた。信じていないと、クリエイティブなんてできない。ロケに行って撮影もできない。コピー1本で100万円ももらえない。それは、第一義的には、「自分を信じなさい、そうじゃないと、良い仕事はできない」という意味だった。
「ゼロイチの仕事はね、信じられるかどうか」。ゼロからイチ、無から有を生む仕事と、それ以外の仕事の決定的な違いは、これだ。
自分の書いたコピーが人々の心を動かすと信じる。自分の企画が最高だと信じて提案する、CMを撮る。そして、一緒に作業する仲間が最高のスタッフだと信じて大切にする。広告業界の仕事は、一人でやるわけではない。だから、仲間を大切にできるかどうか、信じ切れるかどうかで、勝負が分かれる。
そして、その仲間も、お互いに信じられる人じゃないと、不安で任せられない。だから、「信じることが、無から有を生み出す」。つまり、自分だけではなく、第二義的には、「仲間も信じる、あるいは、何でもいいからとにかく信じる」。そんな意味だと思った。
さらに、クリエイティブは、命がけで跳躍する。自分を信じて、仲間を信じて、跳ぶ。クリエイティブ業務では、「ジャンプする」みたいな表現を使うことがある。「ひねりが足りない」「そうきたか」「ココきたか」みたいな。良い意味で期待を裏切る。あるいは、期待を超えて「ジャンプする」、「えいや」って、清水の舞台から飛び降りる。何かを信じていないと、思い切っては跳べないのだ。
「有園さんなら、もっともっとできる。自分を信じてやってみればいい」。小霜氏は、私をそう諭した。これは、私が独立する間接的な力になった。自分の潜在力を強く信じて、もっと高く跳べ、って。
「まるで、スティーブ・ジョブズだな」と私は思った。あのスタンフォード大学の伝説のスピーチで「You have to trust in something」(あなたは何かを信じなければならない)とジョブズも熱く語っている。
“you can’t connect the dots looking forward; you can only connect them looking backward. So you have to trust that the dots will somehow connect in your future. You have to trust in something — your gut, destiny, life, karma, whatever. This approach has never let me down, and it has made all the difference in my life.”
意訳:未来に向かって点と点を結んで線にすることはできない。あとから気づくのだ。振り返ってはじめて、点と点が線になったことに気づく。だからこそ、とにかくあなたは信じるのだ。点と点がいつかつながって線になることを信じるのだ。あなたは何かを信じなければならない。それはなんでもいいのだ。あなたの直感でも、運命でも、命でも、カルマでも、なんでもいい。信じるというアプローチは、決してあなたを裏切らない。それが私自身の人生に、すべての違いをもたらしてくれた。
そして、さらに言えば、「小霜さんは、David Drogaと同じだな」と思った。David Drogaは、カンヌライオンズの歴史の中で最も多くの賞を受賞し、2017年には「Lion of St. Mark」の最年少受賞者となった。その受賞スピーチで、彼は語っている。
“It’s about finding something you care about, because caring is the only thing that really matters. And I would put down everything in my career to the fact that I cared about what I do, and who I work with, and what I make, and the effect that they have.”
意訳:成功のために必要なことは、あなたが大切にできること・大事にできることを見つけるかどうかにかかっている。Caring(大切にすること・大事にすること)が、唯一の本当に重要なことである。私のキャリアのすべてをこのことに費やしてきた。つまり、私が何をするかについて私は大切にしている、一緒に働く人々を大切にしている、何を私が成すかも大切にしている、そして、それらがもらたす結果も大切にしている。
出典:The Lion of St. Mark: David Droga on being scrappy, hard work, the craft, and caring
「クリエイティブとは、信じることである」「クリエイティブとは、caring(大切にすること)である」と並べたとき、小霜氏が意味するものと、David Drogaが意味するものは、私の中で、重なった。
自分を信じる、仲間を信じる、自分のコピーや企画を信じる。自分を大切にする、仲間を大切にする、自分のコピーや企画を大切にする。それが、成功するために、必要なことだ。偉大なクリエイティブ・ディレクター二人の、哲学や仕事へのスタンス。
本気で信じているから、命がけで跳べる。本気で大切にしているから、命がけで跳べる。二人とも、いい仕事ができるはずだ。