幸せになるために、まず不幸せを抱きしめる。
あるとき、たまたま小霜氏と二人でタクシーに乗ったことがある。小霜氏が、希少がんである軟部肉腫を右鼠径部に患い、脚が不自由になってから、数年後だったと思う。(小霜氏が闘病していたことについては、小霜オフィスブログを参照してください)
「19歳の時にタンクローリーとの交通事故に遭ったので、僕の脚は自由に曲がらないんです。正座もできなくなって。でも、僕はそれをずっと隠して生きて来ました」と私は言った。私は、他人から自分の脚のことがバレないように、いつも気を使って生きている。
このとき、私は、小霜氏の脚の不自由さには言及しなかったが、小霜氏は当然、それを前提に受け取った。そして、小霜氏は言った。
「入院しているとき、ある朝、目が覚めたら、空がとても綺麗でね。朝日が差し込んでいて。生きていてよかったな、って思ったんですよ。自分はまだ生きている。まだまだできるって。」
私は、そのときの、小霜氏の悟ったような優しい笑顔を忘れることができない。
「だから、有園さんなら、もっともっとできる。自分を信じてやってみればいい。」
ダメな自分、マイナスな自分、ネガティブな自分を、まず素直に許して受容しなければ、ポジティブにはなれないのだ。脚が曲がらないぐらいで、何言ってんだよって。そして、私にアドバイスをしてくれた。
「幸せになるためには、まず不幸せを抱きしめなければならない。」
小霜氏は、それを仕事と生き様で示していた。
クライアントの「商品・サービス」が100点満点ということはない。必ずどこかしら、マイナスな側面、ネガティブな側面があるものだ。小霜氏は、まずそれを素直に受容しつつ、ターゲット層に向かって、ポジティブに訴求するにはどうすべきか。「商品・サービス」のどこに着目し、何を信じて、その「商品・サービス」を市場で飛躍させるか。それを真剣に考えていた。つまり、小霜氏はプロとしての自分を信じている。そして同時に、クライアントの「商品・サービス」も信じているのだ。自分が心から良いと信じていなければ、「商品・サービス」の本当の良さを、世の中で「飛躍」させることはできない。
最後に、小霜氏との思い出の対談記事を二つ、ご紹介して終わりにしたい。
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