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マルケトに聞く、新規リード獲得に振り回されないBtoBマーケティング法と1stパーティデータの重要性

 サードパーティCookieの規制により、ファーストパーティデータに注目が集まっている。BtoBマーケティングではこの流れをどう受け止めるべきか、必要な対策は何か、新規リード獲得のプレッシャーをどう考えるか――アドビでAdobe Marketo Engageのマーケティングを担当する松井真理子氏と虻川稜太氏が語った。

Cookie規制は原点回帰のきっかけになる

MarkeZine編集部(以下、MZ):ここまでアドビ内でのデータ活用について、お話しを伺ってきました。とはいえ、ブラウザ側のCookieや端末側のIDFAの制限の流れは、マーケターにとって無視できないものとなっています。アドビでは、この流れをどのように見ていますか?

松井:サードパーティCookieが使えなくなる「Cookieレス」により、Webユーザーは自分の個人情報を保護し、提供したい企業にだけデータを提供できるようになります。安心感とともに期待値が上がる分、企業はより高度なパーソナライズ体験を提供する必要が出てくる逆にこれができない企業は、顧客体験において負け組になっていくと予想します

(左)アドビ株式会社 DXマーケティング本部 マーケティングスペシャリスト 虻川稜太氏(右)アドビ株式会社 DXマーケティング本部 マーケティングマネージャー 松井真理子氏
(左)アドビ株式会社 DXマーケティング本部 マーケティングスペシャリスト 虻川稜太氏
(右)アドビ株式会社 DXマーケティング本部 マーケティングマネージャー 松井真理子氏

虻川:Cookieレスで最も影響を受けるのは、デジタル広告です。これまで自宅のポストに入っていたチラシ広告と同様に、デジタル上でも各個人に広告を配るという考え方をすれば、規制は当然の流れかもしれません。家の住所はもちろん、家で何をしているかなんて知られたくないですよね。サードパーティCookieは、デジタルでこのような情報を取得するものなので、プライバシーとして保護するのは当然と思います。

 そして、これらの規制の動きは、顧客体験におけるデジタルの重要性がより高まっているから起きているものと言えます

MZ:BtoB企業にはどのようなインパクトがあるでしょうか?

虻川:多くのBtoB企業はもともとデジタル広告を打つよりも、営業担当がお客様と信頼関係を構築することでビジネスを進めてきました。そのため、本質に立ち帰れば、動揺する必要はありません。プロモーションをサードパーティCookieに頼っていたのであれば、やり方を考え直す良いきっかけになると思います。

 アドビが提供するMA(マーケティングオートメーション)のAdobe Marketo Engageでは、ファーストパーティデータを中心にデータを蓄積し施策に活用しますが、弊社では以前より一貫して、デジタルでもお客様の許諾があった上でフォームに入力してもらうことを重要視していました。「この企業の情報・コンテンツは価値があるから、自らの情報を提供しよう」と思って下さったお客様に対して、さらに優れた体験を提供し、関係性を構築していくこの基本に立ち戻ることになると思います

成長の余地が大きい、ファーストパーティデータの活用

MZ:アドビでは、ファーストパーティデータをどのように定義していますか?

松井:真のファーストパーティデータは、お客様が自ら提供してくださる情報です。ファーストパーティデータの強化には、顧客理解とカスタマージャーニーに基づいたコミュニケーション、そしてコンテンツの力が必要となります。

 なお、ファーストパーティCookieはお客様が開示を許諾した行動情報で、特定のサイト内での行動履歴やログイン情報を一時的にブラウザで保存する仕組みです。これを利用することで、初めてのお客様なのか再訪問なのかがわかり、自社サイトでのサービス向上に活用できます。

虻川:デジタルで取得したファーストパーティデータを紐づけることに加えて、オフラインで取得した情報もあります。ファーストパーティデータと言うと、さぞ新しいもののように聞こえるかもしれませんが、セミナー参加や名刺交換などの情報もこれに含まれます。多くの企業では、Webサイトのカタログやホワイトペーパーをダウンロードされた方、名刺情報、セミナー来場者などがバラバラのファイルやデータベースに格納され、一人の情報が様々な形式で保管されてしまっていると聞きます。これらをファーストパーティデータとして統合管理することが最初のステップです

MZ:ファーストパーティデータを有効活用できているBtoB企業は、現状どのくらいでしょうか?

松井:米国の調査ですが、ファーストパーティデータの潜在能力をデジタルマーケティングに活用できていると考えている企業は47%と半数以下になっています。この調査はBtoBに限ったものではないため、BtoB業界で見るとさらに低いでしょう。デジタルマーケティングが進んでいる米国ですら、この数字です。日本はさらに進んでいないと見ていいでしょう。

虻川:そもそも、デジタルマーケティングに手をつけていないBtoB企業もまだまだあり、差し当たってCookieレスへの対応に困っている企業はそれほど多くないと予想します。そのため、これからファーストパーティデータをいかに取得し、有効活用できる形で整えていくかを考えることが重要ではないかと思います。

リードは永遠に増え続けるものではない

MZ:コロナ禍になり、デジタルマーケティングを本格化し始めたBtoB企業も多い印象ですが、ファーストパーティデータの活用については、まだまだこれからという状況なんですね。

虻川:そうですね。たとえば、コロナ禍でオフラインの展示会ができなくなり、ウェビナーが増えています。デジタル広告でウェビナーの集客をしている企業を多く目にするようになり、オンラインへの投資が総じて増えている状況だと思います。しかし、オンラインへ投資したからと言って、リードはそう簡単に増えるものではありません。特にBtoBでは潜在顧客数も限られています。そこで大切なのは、自社にとって正しいお客様に適切な情報を届けることです。

 BtoBでは担当者が購買に至るまで売り手の情報に平均7.9回の接触を経ている、というデータがあります。7.9回という数を考慮すると、検討のあらゆる段階で情報に接していると言えます。お客様のカスタマージャーニーを考え、どこでお名前やメールアドレスなどのファーストパーティデータを取得して、1対1のコミュニケーションをスタートするかなど、全体の設計が重要です。

松井:BtoBでよく聞かれるお悩みは、やはり「新規リードを取り続けなければならない」ということです。我々もこれに苦労していますが、リードは昨対比で永遠に増え続けるものではありません

 獲得した新規リードのうち具体的に購入を検討しているのは5%であったとして、残りの95%に対して継続的にパーソナライズされたコミュニケーションを行うことが重要です。Adobe Marketo Engageの思想として、「リードのリサイクル」という考え方があります。商談化したが失注になった案件は、担当を営業からマーケティングに戻し、ファーストパーティデータである行動状況を見ながら継続的なコミュニケーションを続けていく。このプロセスを回すことを大切にしています。

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 ファーストパーティデータがあるからこそ、コミュニケーションを継続することができます。昨対比で新規リードを何%増やすといった試算上必要な数値だけを追求するサイクルよりも、未受注や失注でマーケティングに戻ってきたリードにも時間をかけて検討を促進するマーケティング活動が有効ではないかと思います。

リードの獲得数だけに走ると息詰まる

MZ:このところ、ウェビナーで獲得したリードは検討度が低いことが多いという問題もよく聞きます。

虻川:広告やイベントへのスポンサーシップなどの活動をオンラインで実施すると、たくさんのリードを獲得できますが、商談化率は下がってしまいます。我々も、獲得したリードが適切なターゲットなのかを検証しなければならないと考え、ユーザーではない方も含めた定性調査を行いました。

 すると、デジタル広告を打っているにもかかわらず、過去にMAをご検討されたり、導入のご経験があったりする方でも、Adobe Marketo Engageのことを知らないという人が多くて驚きました。この結果から、露出する面が違っていたのではないかという仮説を立てています。お客様を理解した上で投資しなければ、期待しているような反応は得られないことを身をもって体感しました。

MZ:そのようなコミュニケーション面での課題は、多くのBtoB企業でも共通していると言えそうです。

虻川:定性調査ではもう1つ、検討を進めていく上で欲しい情報が見つからなかったという意見もいただきました。自分で情報を探してみたけど、わからなかったので検討をやめたという顧客行動が起きていたのです。Adobe Marketo EngageのWebサイトではマーケティングや営業に携わる方に向けたコンテンツを比較的多く用意しているので、コンテンツが足りていないのではなく、内容が求めているものと違った、あるいは正しく届けられていなかったという点が問題であると考えています。

 こうしてお客様の定性的な情報が得られれば、サードパーティCookieに頼り切ったリターゲティング広告などを実施せずとも、この面に広告を出すとこのくらいの反応があるといった仮説を立てることができ、骨太の施策が実現するという気づきがありました。この課題を少しでも解消できるように、これまであまり訴求できていなかった種類のお客様の課題に沿った新しいコンテンツの作成、新しい媒体を使ったオウンドコンテンツなども進めていこうと考えています。

カスタマーマーケティングにおける1stパーティデータの活用可能性

松井:我々は、ユーザーがモチベーション高くマーケティングに取り組んでいるかの指標としてもファーストパーティデータを使っています。Adobe Marketo Engageは、ユーザーが学習と活用を繰り返すことで、マーケターとしての成功を支援する製品です。ですので、オンボーディングが特に重要だと考えています。「我々から提供する情報・コンテンツに、適切なタイミングで触れていないお客様はAdobe Marketo Engageの活用が思うように進まない」という仮説のもと、学習コンテンツに触れているかを注意して見ています。ほかにも、契約インスタンスにおけるユーザー数やデータベース数が増えているか、ユーザーコミュニティに参加しているかといったところも注視しています。

 これらの情報はAdobe Marketo Engageの中に蓄積されており、定期的にユーザーヒアリングをさせていただく際は、事前に活用状況を把握した上で、お話を伺っています。

MZ:カスタマーマーケティングでも、ファーストパーティデータは多いに活用できるのですね。

虻川:BtoBでは現在サブスクリプションモデルで商品やサービスを提供する企業が増えています。買い切り型のビジネスモデルではカスタマーマーケティングを重視していなかった企業も、サブスクになり、お客様との関係性を維持するためにカスタマーマーケティングを強化している動きがあります。お客様の信頼をつかむにはどうすればいいか、LTVを高めるにはどうすればいいかを考えた時に、カスタマーマーケティングの重要性に行き着くようです。

松井:SaaS事業者はチャーンレート(解約率)を低くしたいという課題を抱えており、その目的でAdobe Marketo Engageを活用されている企業が多くいらっしゃいます。あるお客様は、Adobe Marketo Engageと他のツールを組み合わせて、お客様の満足度や困りごとがないかを定常的にヒアリングし、その情報を営業にも共有する仕組みを構築されていました。解約のリスクがありそうなお客様をすぐに検知でき、営業担当もすぐに動ける状態を作れているので、素晴らしいですよね。

1stパーティデータ戦略を進める上でのアドバイス

MZ:顧客との関係性をしっかり構築するという原点回帰が求められていると言えそうです。最後にマーケターにアドバイスをお願いします。

松井:マーケティング側には、検討度の高いリードが欲しいという声が寄せられます。リードに関しては“質”なのか“量”なのかという話題がよく出てきますが、デジタルマーケティングだけで検討度の高いリードを、量も満たしながら獲得することは難しいだからこそ、ファーストパーティデータに基づいたコミュニケーションによるタッチポイントの創出を継続し、お客様が何か行動を起こそうと思った時に想起される存在になることが大事だと考えます。ベンダー側は、これらお客様の大きな行動の変化を察知する仕組みが必要かもしれません。

虻川:そうですね。実は、昨年のスポンサーイベントで接点を持ったリードから、今年に入って10件以上のアポイントに繋がりました。昨年の時点ではほとんどアポイントに繋がっていなかったので、施策の成果は短期には判断できないことがあります。継続的にやり取りをして、お客様をフォローしておくことが大事だと改めて感じました。

 そのためには、社内でお客様をどうフォローするのかを整理し、部門をまたいだプロセスとして確立しておく必要があります。ステージ毎に何をするのかを定め、ちゃんと成果が出ているのかを数字で管理することが重要です。

 もう一点、「全員が同じ方向を向いて施策を行うこと」も大切です。自社にどんな課題があり、どんな人に響くコンテンツを、どんな手段で届けるのか、目標は何かといったことをメンバーで共有できていれば、視点が「リードの直近の検討度」から「お客様に関心を持ってもらうためにはどうすればいいのか」に変わります

松井:今回あがったCookieレスの話に関連して、許諾いただいたお客様の情報を安全に管理し活用するために、マーケター自身も知識を習得しておくことが必要だと思います。

 特定メール電子法、改正個人情報保護法などの法律を理解しておけば、自社内にあるお客様の個人情報をどのように守ればいいのかがわかります。国外のお客様もいらっしゃるようなビジネスであれば、GDPR(EU一般データ保護規制)CCPA(カリフォルニア州消費者プライバシー法)などについても最低限の知識を身につけておくと、法に抵触することなく、お客様の情報を守りながらコミュニケーションできる方法が見えてくるでしょう。

 この部分を法務やリスク管理の部門に任せっきりにしていては、安心して施策を展開できず、他の部門にも説明できません。手始めに、マーケター自身が法律を勉強するのもいいかもしれません。

アドビ社内で実践しているワークシートを参考に作成された「キャンペーン計画テンプレート」。優れたアイデアを実施可能なプランに落とし込み、実行に移す際に役立ちます。自由に変更・修正できるので、自社独自のテンプレートを作成し、ご活用ください。

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この記事の著者

末岡 洋子(スエオカ ヨウコ)

フリーライター

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2021/11/12 11:00 https://markezine.jp/article/detail/37537