同意取得の上での精度とコホートのボリュームのバランス
有園:効果の点ではどうなんでしょうか?
簗島:効果の差をどう見るかは、正直言って難しいところです。ネット広告はオークションなので、ターゲティング精度が高いとCTRとCVRは上がりますが、セグメントがコモディティ化していると、つまり競合企業も「この人たちがリタゲの対象者」「CVが高いユーザー」とわかっていると、入札の競争が起きてCPMも上がってしまう。逆にコホートでターゲティングするとCTRとCVRは下がっても、そのコホートが他社に把握されていなければCPMも下がるので、効果をCPAで見るとしたらCPAは結果的に抑えられることもある。
有園:セグメントの切り方による。
簗島:はい。現状は、そのコホートを生成する当社のツールがそこまで多くの企業に広がっていないので、競争が起きておらず、結果としてCPAが抑えられているとも言えます。そのコホートを生成する当社のツールがターゲティング広告のスタンダードになって他に同様のことが可能なツールが広がっていくと将来的にはパフォーマンスは下がっていくかもしれませんが、現時点ではパフォーマンス面でも魅力的な配信方法になっていると思います。
有園:ここまでのお話だと、20%とはいえ完全に同意取得したデータで精度高いアプローチをするのか、それともコホートを使うのかという二極化する状況があるわけですよね。精度と価格、というか一概に価格で評価できないとなると「価値」と言ったほうがいいのかもしれませんが、その価値をどう見るかを少し話したいと思います。
20%の割合にターゲティングをしていくと、確かにボリュームが小さくなるので、同意にこだわらずにコホートでマーケティングするほうが最終的なビジネス成果が高くなることがある、というのは理解できます。ただ、これが30%、50%とどんどん高くなると、同意取得を前提としたマーケティングの成果が引き上がりますよね。

簗島:その通りです。
「ターゲティングされたくない」人を把握するのも重要
有園:すると、やはり広告主がCMPを導入して、地道に同意取得を促していくことが大事になる?
簗島:そうですね。CMPを導入し、同意取得率が上がるようにプライバシーポリシーを充実させたり、ユーザーへの提案の仕方を改善したりすることが必要だと思います。法律順守は当然なのですが、それとはまた別の軸で、ユーザーに安心してもらえることが大事です。たとえばNTTドコモの取り組みは、僕らとしても企業のあるべき理想像だと思います。
有園:本連載の以前の回でも、好例として挙がりました。同社のパーソナルデータマネジメントプラットフォームのように、ユーザー自身が自分のデータをどこまで開示するかをマネジメントできる機能やインターフェースを用意することが大事になる、と。
たとえばナショナルブランドと呼ばれるBtoCの大手メーカーが皆、こうした仕組みを導入するといいですよね。するとユーザーには安心で、不快な広告が配信されることも減っていく。つまりそうした広告は淘汰され、アドフラウドの減少にもつながるのではないかと思うのですが、どうですか?
簗島:同感です。付け加えると、CMPの副次的効果として、やはり「ターゲティング広告を受け取りたくない人」を把握することに価値があると僕は思っています。CMPを介した同意取得率は約20%、つまり80%は個人のデータに基づくマーケティングをよしとしていないのに対し、企業サイトから該当ページに行き着いて「明確に拒否する」とオプトアウトしている人はわずか5~6%なんですね。つまりこの差である75%を、企業は把握できていないことになる。
有園:本当はターゲティング広告を受け取りたくないけれど、出てしまっている人がいると。
簗島:そうです。見たくない人を把握することも、広告精度の向上につながります。ただし今後、同意取得率が一気に上がることはあまり考えにくい。なので、ユーザーの心理を汲んだマーケティングと一定の母数が見込めるコホート的なマーケティング、どちらにどの程度重きをおいていくのかを、自社の状況に照らして見極めるのが大事になると思います。
