「データをたくさん集めればビジネスになる」という幻想
情報銀行のビジネスは、なかなか、うまくいかないと聞いている。情報銀行とは「事業者認定の制度」であって、そのままではビジネスモデルがない。銀行とのアナロジーで、「データ・情報をたくさん集めればビジネスになる」という幻想がある。
だが、ただ集めても、個人情報漏洩などのリスクが高まるだけだ。ビジネスモデルがなければ、サーバーのコストもかかるだけ。データ蓄積で、即座に儲かるものではない。
情報銀行と一般の銀行は、まったく別ものだ。まず、貨幣・法定通貨というのは、銀行に預けなくても交換価値がある。紙切れの1万円札に価値がある。道端に落ちていたら、普通の人は、拾うはずだ。
データや情報、たとえば、私の個人の名前が書かれたメモの紙切れが落ちていたら、あなたはそれを拾うだろうか? そこにどんな交換価値があるのか? 私の名前も個人情報でありデータでもある。名前だけメモされた紙切れ。いくらで売れるのか?まったくわからない。
誰も拾うことのないメモを大量に集めて、その集積によって価値を出そうという試みが、情報銀行のようにみえる。だが、通常の銀行と同じようにはいかない。
貨幣を銀行に集めて、銀行ビジネスができるのは、集める前から貨幣に交換価値があるからだ。この交換価値は、中央銀行が貨幣発行権を独占し、国家が定める法定通貨だからこそ、貨幣共同体が形成され、交換価値が生まれる。
データ・情報においては、中央銀行に該当するものがない。だから、情報銀行と銀行は、単なるアナロジーに過ぎない。その価値構造と価値形態はまったく異なる。情報銀行がそう簡単にブレイクしない所以だ。
可能性がゼロとは言わないが、ビジネスとしての「情報銀行の不可能性」が、そこにある。
欧米で進む、金融×情報銀行の融合ビジネス
情報銀行の認定制度の背景には、私の理解では、社会問題がある。個人情報・データがGAFAなどに集中し、富の偏在・貧富の格差が課題になっている。もちろん、プライバシーの問題、および、監視資本主義の問題もある。
その社会問題を解決するために、情報銀行という制度をどう活かすか? 「データの地球の回し方」と「データ・情報のパッケージ化」をヒントに、ビジネスモデルの確立を期待したいところだ。
欧米の動きを見ると、銀行・金融サービスと「情報銀行」的な事業を融合したビジネスモデルが、誕生しつつある。『エンベデッド・ファイナンスの衝撃―すべての企業は金融サービス企業になる』(城田 真琴著、東洋経済新報社)によれば、「海外では、グーグル、アマゾン、アップルといった巨大IT企業が決済、融資、クレジットカードの発行、さらには銀行口座の提供に乗り出そうとしている」とのことだ。
ニュースによれば、Googleは、「Google Payを通じたデジタルバンクサービスの提供を2021年1月より米国ユーザー向けに開始すると発表した。同サービスは『Plex Account』と呼ばれ、米国における11の銀行やクレジットユニオンがパートナー企業として参加する」。
一方で、金融業界の反発があったらしく、2021年10月に早くも「銀行口座を開設するサービス『Plex Account』の提供を中止する」(参照:マネーフォワードFintech研究所ブログ)と急ブレーキを踏んでいる。
ただし、若い世代を中心にデジタルバンクは普及し、GoogleなどGAFAとの融合サービスを期待する声は高まっている(参考:『エンベデッド・ファイナンスの衝撃』)。そして、ユーザーの同意が得られると、その金融サービスの利用履歴も含めて、「データ・情報のパッケージ化」(商品化)が行われ得る。
実際、グーグルペイのアカウントにサインアップすると、グーグルペイ内の取引データ(どこの店で買い物をしたかなど)をユーザー体験向上のための「パーソナライゼーション」に使用してもよいかを尋ねてくる。ユーザーの承諾を得られれば、グーグルの他のサービスとの連携が始まる。
<中略> 金融サービスから得られるデータは、非常にセンシティブであるが故に価値が高い。当面はいつも買い物している店からセールの案内が届いたり、頻繁に購入している商品をより安く購入できる別の店の広告が表示されたりするといった活用が考えられる。しかし、銀行残高や収入源、いつ・何にお金を使っているのかといったことを正確に把握できれば、将来的には融資サービスの提供に乗り出してもおかしくはない。
<中略> ユーザーの同意が前提にはなるが、グーグルが保有するユーザーの多様なパーソナルデータを分析し、与信の精度を向上させることで他の金融機関よりも有利な条件が提示されるのであれば、同意が得られる確率も上がるだろう。
「ユーザーの同意が前提にはなる」というのがポイントだ。そして、案外、Googleのコアなユーザーなら同意するとみられている。それは、Amazon銀行やApple銀行、Facebook銀行などの可能性も同じである。特に、Appleユーザーには、熱狂的なファンが多い。