大切な商品を、安売りしない
この一件で、「大切な商品は、ブランドを大切にしてくれる人に売らなければいけない」と気づいたのです。
そこで、ネット通販をやめ、店頭販売のみに戻しました。今振り返ると、ケンズカフェ東京のガトーショコラが単なる人気商品から「ブランド」に変わったのは、このときだったかもしれません。
ブランドを作りたければ、お客様を選ばなければいけない。誰にでも安売りしてはいけない。そしてそのためには、自社商品をどんなお客様に買ってもらいたいかを明確にしておく必要があるのです。
では、ケンズカフェ東京のガトーショコラはどんな人に召し上がっていただきたいか? それは、当店のガトーショコラの美味しさを理解し、大切に召し上がってくれる人です。
それって、ターゲット設定としては大雑把すぎるのでは? と思われる人もいると思いますが、年齢や性別、収入などの属性を絞り込むのは、そこまでしないとターゲットをイメージしづらいからで、明確にお客様をイメージできるのであれば、ざっくりした設定でもいいと私は思っています。
ターゲット設定を行う際に肝心なのは、ターゲットを思い浮かべたときに仕事を頑張る力が湧いてきたり、経営戦略の判断基準にできたりすることなのです。
「ターゲットの明確化」で環境変化を乗り越える
そもそもケンズカフェ東京のガトーショコラは、連載1回目で述べた通り、イタリアンのコース料理の最後に提供していたデザートが始まりです。
お客様の「こんなに美味しいガトーショコラは初めて食べた」という感激の声に後押しされて、単独で販売するようになったのが原点です。まさにこういった感想を抱いてくれるお客様が、私にとっては「真のお客様」です。ガトーショコラを粗略に売る暇があったら、当店のガトーショコラにふさわしいお客様ともっと出会い、もっと喜んでもらうために、やるべきことはいくらでもあります。
コロナ禍でありながら経営的にあまり打撃を受けなかったのは、私のこの「ターゲットの明確化にともなう限定的販売スタイル」が間違っていなかったからだと分析しています。
当店のお客様は、陰鬱な毎日を吹き飛ばす役割をガトーショコラに期待している。当店のガトーショコラが特別な存在としてお客様に認知されているからこそ、今のような非常事態に選んでいただけているのではないでしょうか。それはとても光栄なことです。
環境変化に負けない強くしなやかなブランドを作るには、日頃から商品をどんな人に提供したいか、鮮やかにイメージし、そこに向けてビジネスを構築することが大切です。そしてそれは、平時にも非常時にも通用するものだと思います。
自転車メーカーだったら、自社の作る自転車をどんな人に乗ってもらいたいか、そしてどんな風に喜んでもらいたいか。スーパーだったら、どんな人に自分の店で買い物をしてもらいたいか、そしてどんな風に喜んでもらいたいか。
そういったことを鮮やかにイメージできるか、ぜひ自分に問いかけてみてください。きっとブランドの軸として逆境を乗り越える力になると思います。