目線を奪える時間が長い
駅構内やエレベーター前、喫煙所や病院の待合室など、デジタルサイネージは街中にあふれている。それらデジタルサイネージと比べたタクシーの車内サイネージの特徴は、動画の視聴の質が著しく高い空間であることだ。IRISの調査では、タクシーの平均乗車人数は2人に満たない約1.8人で、平均乗車時間は約18分。つまり、タクシーに乗車した客のほとんどが目の前にサイネージが設置されている左後部座席に座り、18分もの間デジタルサイネージ画面を見続けてもらえる可能性が高い。
駅構内のサイネージとして代表的なものに、JR品川駅の中央改札口から新幹線乗り場や港南口へ向かう自由通路に並んだものがある。一面だけでは目線に入っただけで印象に残りにくいが、あれだけ長い距離、同じ内容のサイネージが流れ続けていると「見たな」という印象が残りやすい。タクシー車内はその効果を一面で再現することができて、かつ視聴時間も長い。また、エレベーター前のサイネージも「待ち時間に目を奪う」のに効果的な広告メディアだが、その時間は長くてもせいぜい数分だろう。タクシーの車内サイネージは、なかなか他では再現しにくい効果的な空間といえる。
サイネージを見続けてもらいやすい空間であることと、目線を奪える時間が長いこと。この2つの掛け合わせにより、「タクシーの中で見たな」という印象が残りやすいことが、タクシーのデジタルサイネージ広告の最も大きなアドバンテージなのだ。
車窓サイネージ、広告付タクシーシェルターなどの登場
ここで、直近のタクシーサイネージ広告のトレンドにも触れておく。コロナ禍のインプレッション(広告表示回数)が最も落ち込んだのは、2020年4月〜6月の初の緊急事態宣言下のこと。厳しい外出自粛要請だったことからインプレッションは従来の50%を割ることもあった。しかし、前述の通りテレワーク下でも出社しなければならないビジネスパーソンの利用も増えたことから、2021年は徐々に回復。緊急事態宣言下でも想定表示回数を割ることはなく、安定的に推移している。
また、車内サイネージ以外での広告展開のケースも増えている。IRISでは、ヴィスタコミュニケーションズが運営・管理するタクシーシェルター広告(屋根付タクシー乗り場のポスター広告)のポスター広告と、Tokyo Primeのサイネージ広告をセットメニューとして2021年8月から販売開始している。

広告付タクシーシェルターのポスター広告はスタティックなものだが、タクシー乗車後は動画というダイナミックな広告が目に入る。クライアントにとってセットメニューのメリットは、タクシー乗り場での待ち時間からアテンションを集めるだけでなく、乗車後もTokyo Primeを通して連続性のあるアプローチができることだ。

また現時点でIRISでは商品化はしていないものの、車窓サイネージ広告を搭載したタクシーも街中を走行するようになった。車窓サイネージは、動いているタクシーを見ている歩行者などに向けた広告であり、車内サイネージのターゲットとはやや異なる。車窓サイネージ広告は、タクシーの車体の側面に貼られているステッカー広告(ラッピング)と同義で、交通広告の中でもまさにOOHとしての役割が大きいものだといえる。このように、ひとくちに“タクシー広告”と言っても、その役割やターゲット属性は大きく異なるのだ。