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店舗接客とDMを連携し高いCVを実現!データと紙がつながる時代のDMの新しい価値(2)

 マーケターのアイデアと、データ・テクノロジーの活用で、紙のDMの可能性はこんなにも広がる――。本記事では全日本DM大賞の受賞歴を持つビジョナリーホールディングス(メガネスーパー)、PVHジャパン(TOMMY HILFIGER)、そしてそれらのDMの企画・制作に携わったグーフへ、それぞれインタビュー。受賞作品の企画背景や数値も含めたマーケティング成果、DMという媒体の今後について、考えをうかがった。

「店舗接客で築いた関係性」を紙のDMにも反映

 メガネスーパーなどを展開するビジョナリーホールディングスは、2019年に「LTV向上 店舗誘導パーソナライズDM」において銀賞、2021年に「コンタクト定期便トリガーDM」において銅賞を受賞した。

株式会社ビジョナリーホールディングス 執行役員 マーケティング事業部 Managing Director 宮森 修仁氏
株式会社ビジョナリーホールディングス 執行役員 マーケティング事業部 Managing Director 宮森 修仁氏

 同社で店舗への送客を含むCRM・マーケティングを統括する宮森 修仁氏は、DM活用を進めてきた経緯を以下のように明かす。

 従来店舗スタッフは主に電話で、接客した顧客へのフォローを行っていた。しかしその数は1日10件程度にとどまっており、より効率的な方法を模索し、DMを取り入れることに。開始直後はユーザーをセグメント分けし、シナリオをもとにDMを送付していたが、店舗で接客しているスタッフとお客さまとの関係性が完全には活かせていないことが課題だった

 「データに基づいたマーケティングは重要ですが、それ以上に、店舗スタッフが現場で行う『お客さま一人ひとりに合わせた接客』は欠かせないものです。お客さまと対面で対応するスタッフだからこそ構築できる関係性がある。そのエッセンスをDMに加えることで、より効果が高くなると考えました」(宮森氏)

 受賞作である「LTV向上 店舗誘導パーソナライズDM」は、このアイデアを反映したものだ。

LTV向上 店舗誘導パーソナライズDM
LTV向上 店舗誘導パーソナライズDM

ROIは200%超を維持!

 具体的には、店舗でメガネを購入したお客さまに、一定期間経過後、DMを送付。店舗でのコミュニケーションで得られた「スポーツをする」「老眼が気になり始めた」といったお客さまのライフスタイルに合わせて、お勧めする商品を変えている。合わせて、接客を担当したスタッフの顔写真も掲載できる仕組みだ。

 「このDMを取り入れたことで、長期的な視野での接客が可能となりました。タイミングの最適化やシナリオ設計には蓄積してきたデータを活用し、メッセージやスタッフの顔写真といったコンテンツには、人の温かみの要素を入れています。マーケティングにおいては右脳と左脳、両方が重要だと思っていますが、この施策はちょうど良いバランスでミックスしていけたと感じています」(宮森氏)

 毎月のROIは200%を超えているという同施策。2本目のメガネ購入に結びついているほか、“一家族単位のLTV”の向上も顕著だという。これまでのデータから、新しいメガネを納品した直後は、家庭内でメガネに関する話題が挙がりやすくなり、その家族の来店・購入につながりやすいことがわかっていた。DMが家族でシェアされることにより、それがさらに促進されているのだろう。

サブスク入会を訴求するDMにも、店舗の接客データを活用

 コロナ禍では、感染予防の観点から客足が減り、売上を落としてしまう企業が多数あった。しかしビジョナリーホールディングスでは「コンタクト定期便トリガーDM」を通じて、コンタクトレンズのサブスクリプション登録促進などを進めていたことから、コロナ禍の影響を、売上前年比1割減に抑えることができた。

 本施策を展開するにあたっては、加入しない理由についてお客さまへアンケートをとり、スタッフと話し合いを重ねた上で、いくつかのシナリオを作成。考え出したシナリオにもとに、そのお客さまがサブスクリプションに加入した場合どれくらいお得になるかを見やすくしたり、店舗での接客データをもとに使用頻度を予測したりして、一人ひとりに合わせたDMを送付している。

LTV向上 店舗誘導パーソナライズDM
LTV向上 店舗誘導パーソナライズDM

 同社が現在取り組んでいるのは、購入だけでなく来店をトリガーにしたDMを実現することだ。そのために、POSに反映されない購入以外の接点も記録として残し、購入のデータと合わせることで、カスタマージャーニー型のデータ整備を進めている。忙しい店舗スタッフがお客さまに関するデータを記録しやすいよう、手入力ではなく様々なアイコンで入力の手間を減らす工夫もしている。

 「今まで私たちは、お店に来たその瞬間のお客さましか接客できていませんでした。しかしお客様は、これまで店舗に来られた経験も踏まえた上で、来店されているのです。つまりお客様は『線』で来店されていますが、私たちは『点』でしか接客できていなかった。この部分にテコ入れしていきたいと思っています」(宮森氏)

ブランドらしさが溢れる封書がタイムリーに到着!CVRは約54%

 PVHジャパンは、TOMMY HILFIGERやCalvin Kleinの国内展開を手掛けるアパレル企業だ。TOMMY HILFIGER における「ポイント有効期限のお知らせがタイムリーに届くDM」は、2021年のDM大賞で銀賞を受賞した。同社でMAを活用した顧客導線の設計・運用を行う松山 真由美氏は、「私たちは、お客さまの視点に立ち、お客さまに寄り添った商品やサービスの展開を大切にしています。今回賞をいただいた施策も、そういった思いに基づき行ったものでした」と、施策の背景を振り返る。

合同会社 PVHジャパン E-Commerce&Digital Management, CRM& Customer Journey, カスタマーロイヤリティ マネージャー 松山 真由美氏
合同会社 PVHジャパン E-Commerce&Digital Management, CRM& Customer Journey,
カスタマーロイヤリティ マネージャー 松山 真由美氏

 本施策は、TOMMY HILFIGERの会員プログラム「MYTOMMY」において、対象となるお客さまに、ポイント失効日が迫っていることや保有ポイントで購入できる商品の例などを、封書のDMを通じて周知するというものだ。

ポイント有効期限のお知らせがタイムリーに届くDM
ポイント有効期限のお知らせがタイムリーに届くDM

 同社の会員プログラムの歴史は長く、店舗スタッフが会員向けに手書きで送付していたハガキDMも、高い効果を上げていた。しかし時代の進みと共に、3つの課題が顕在化した。1つ目の課題は、お客さまの所有ポイント情報などが他人の目に触れてしまう可能性があること。このことが不安や懸念につながらないよう、情報の届け方を改善する必要があった。

 2つ目は、毎月DMの発送に多くのリソースが割かれ、スタッフの負荷が増加していたことだ。前述のビジョナリーホールディングスのように、施策の効率化が求められていたわけだ。

 そして3つ目は、店舗間でサービスの質に差が出てしまっていたこと。たとえば来店顧客数の多い路面店では、DMの発送数も多くなり、お客さまにとって最も適切と思われるタイミングで情報を届けるのが難しくなっていた。

 こうした課題を踏まえ、スタッフがお客さまとより良い関係を構築できる環境を整えるために企画したDMが、受賞作の「ポイント有効期限のお知らせがタイムリーに届くDM」だ。CVR約54%と高い実績を出した同施策のポイントは、どのような点にあるのだろうか。

世界観が伝わるよう、細部までこだわり抜く

 松山氏は、ブランドとしての思いを反映させながらクリエイティブにこだわり抜いたことを明かしてくれた。

 「お客さまとの関係性を重視し、もらって嬉しいDMとなるよう制作していきました。特にこだわったのは、封書のDMを最適なタイミングで送るという点です」(松山氏)

 封書とすることで、課題となっていた顧客情報の保護を実現。加えてブランドとして付加価値を高めていったのだ。外部のデザイナーとも協議しながら、形状やデザイン、フォント、配色、紙質にまでこだわっていった。DMでのブランドらしさの追求には、松山氏のある考えがあった。

 「ブランドというのは小さな取り組みの積み重ねで形作られていくものだと思っています。一方で、積み重ねてきた信頼やイメージは、些細なきっかけで失われてしまいます。そのため今回のDMもお客さまの視点に立ち、細かい部分まで考えを巡らせました」(松山氏)

 TOMMY HILFIGERではほかにも、お客さまの誕生月やホリデーシーズンにもDMを送付しており、「デザインを気に入ったので、捨てずに部屋に飾っている」と明かしてくれるお客さまもいるそうだ。

 DM施策の今後について、松山氏は「サステナブルな取り組み」が鍵になると考えている。

 「DMのメリットは、情報を直接、最適なタイミングでお客さまへ届けられる点で、それはお客さまにとっても私たちにとっても価値のあるものです。一方でサステナビリティへの意識が高いお客さまも多く、私たちとしても社会的責任を果たすべく取り組みを進めています。DMにおいても、たとえば再生紙の活用など、環境への配慮を行っていますが、同時に『紙のDMでなくてはならない理由や価値』を考えることも重要だと思っています」(松山氏)

キーワードは丁寧さ。データと紙がつながる時代、DMにできること

 2社の企画・制作に携わったのが、「テクノロジーで『紙』の新たな価値を作る」をミッションに掲げるグーフだ。CEOの岡本 幸憲氏は、デジタルが普及する中での紙媒体の価値を「丁寧であること」だと語る。

株式会社グーフ 代表取締役社長 CEO 岡本 幸憲氏
株式会社グーフ 代表取締役社長 CEO 岡本 幸憲氏

 これまで紹介した2社の事例は、パーソナライズやクリエイティブといった部分で丁寧さが発揮されている。さらに深く掘り下げると、コンテクストを用意することだけでなく、ユーザーのためを思い、共感をはぐくむことも含まれている。特に意識されているのが関係性を紡いでいくという視点で、LTVという指標がマーケターの間でよく使われるようになったことが一つのきっかけになっている。

 この点から紙という媒体、そしてDMを見ると、大きな伸びしろがある。実際、前述の2社のようにデータを活用しながら顧客との関係性をつむいでいく“一歩進んだDM活用”を行う企業の輪は広がり始めているという。

マーケターが考える「ありたい姿」の実現を支援したい

 その上で大切なのが、デジタルとアナログを、“相互が補完し合う存在”だと認識することだ。データを活用したDMとデジタルチャネルの成果を比較すると、DMのCVRはとても高く感じられるが、顧客視点を欠いて闇雲にDMを送付しても、期待したような効果は得られない。岡本氏によると、これが「紙媒体はコストが高い」という勘違いにつながる要因になっている。マーケターの発想力をもって、デジタルとアナログを補完しながら取り組むことが欠かせない。

 その典型が、前述のビジョナリーホールディングスの事例だ。デジタルのみで完結しようとした場合、購買履歴のみでコミュニケーションを組み立てていくことになり、ユーザーのインサイトが不透明になる。またメールの中で発揮できるクリエイティビティも限定的だ。一方でアナログ完結しようとすると、顧客視点を欠いてしまう。同社では各店舗で蓄積した接客データをもとにテクノロジーを用いることで紙媒体のポテンシャルを引き出し、大きな実績を残せたというわけだ。このことに着目しCRMを再構築している点が、同社の先進性と言える。

 DMの今後と同社の役割について、岡本氏は次のように話す。

 「タイミングのパーソナライゼーションやブランドの世界観の表現は、利益を伸ばしていく点において、重要な事柄です。これらの点においてDMというメディアは、まだまだ可能性を持っています。

 本来マーケターというのは、どうやってお客さまを幸せにしたいか、ブランドのありたい姿はどんなものか、お客さまとどんな関係性を紡ぐかを考えるべき存在です。TOMMY HILFIGERの松山さんは、まさにそれに真摯に向き合い、実践されています。そのようなマーケターの方々の夢をどのように実現できるか、どの順番で何をすればいいかを考えるのが、我々印刷メディアのプロの仕事です。デジタルとアナログでこんなことをやってみたい、というアイデアを持っているマーケターの方は、ぜひご相談いただけると嬉しいですね」(岡本氏)

動画で学ぶ「デジタル×DM」

 日本ロレアル、DINOS CORPORATION、オムロンヘルスケア、味一番などの実践と実績を、わかりやすく解説。DMがデジタルと連携するとどんなことができるのか、先進事例を学ぶことができます!

デジタルマーケターが知っておきたい成功への“虎の巻”

 DMをどう取り入れるか考えたいマーケターは必見! DMへの造詣が深く、企業のマーケティング戦略立案や営業支援を手掛けるフュージョン 吉川景博氏と、数々の講演や執筆活動を通じてDM活用の普及に努める日本ダイレクトメール協会 椎名昌彦氏が、実践に向けての“最初の一歩”を解説します。ダウンロードページはこちら

DINOS CORPORATION(前ディノス・セシール)石川森生氏へのインタビューも公開中!

「第33回全日本DM大賞(2019年)」でグランプリを受賞したパーソナライズDM施策を例に、デジタル×アナログ推進の様子を聞きました。記事:石川森生氏に聞く、デジアナ融合推進のポイント/データと紙がつながる時代のDMの新しい価値(1)

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この記事の著者

タカハシ コウキ(タカハシ コウキ)

1997年生まれ。2020年に駒沢大学経済学部を卒業。在学中よりインターンなどで記事制作を経験。卒業後、フリーライターとして、インタビューやレポート記事を執筆している。またカメラマンとしても活動中。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2022/04/13 15:16 https://markezine.jp/article/detail/38420