スイーツにブランド化は必要なし?
——ブームに便乗するように、マリトッツォを販売するお店が急増しました。そうすると、次は「自社のマリトッツォ」を選んでもらうことが重要になってくると思います。スイーツをブランド化させるために大切なことは何でしょうか。
金森:スイーツのブーム化が困難であることと同様に、ブランド化することも容易ではなく、具体的に明言できません。そもそも、個人的には、コンビニスイーツのような近年ブームになっているスイーツはブランド化を目指す必要はない、と考えています。ブランド化とは「売れ続ける仕組み作り」です。ブランド化するためには、性能やクオリティだけではなく、その商品やサービスの背景にある“消費者の心を動かす物語”が必要です。裏を返すと、パッとブームになってパッと消えてしまうモノはブランド化したとは言えません。
スイーツは他の商品と比較すると、季節性と大きく関連しているためサイクルがとても早く、ある意味ブランド化とは対極の商品です。1~2ヵ月くらいで消費者のリアクションを見て、芳しくなければ早々に諦めて次の商品企画を進める、というプロセスが食品メーカーやコンビニ各社の常識です。企業は短期のブーム化を優先したスイーツ開発を行っており、とりわけ、コンビニスイーツにおいては「ブランド化すればラッキー」くらいにしか考えていないのではないでしょうか。
——コンビニスイーツとは違うスイーツの場合、ブランド化において何が求められますか?
金森:私が学生と一緒に2008年開発したスイーツを例に出します。当時は、まず低カロリーの素材を前提とした、「若い女性をターゲットとして商品を開発する」という目的から始まりました。10グループほどのフォーカスグループインタビューを実施した結果、「鞄の中に入れておいて、お腹が空いたらすぐに食べられるスイーツ」にニーズがあることがわかりました。また、当時は中国野菜の残留農薬問題が一般的に懸念されており、商品属性としては安心安全の国産素材が重視されており、その辺りも意識することに決めました。
そして、2009年には発売に至り、マスコミなどに取り上げられ、今でも継続して販売されています。この商品の場合、マリトッツオのような「ブームになりそうかどうか」ではなく、消費者ニーズのトレンドを見つけ、それに対応した商品開発になりました。他の商品やサービス同様、スイーツであってもフェーズごとに時間をかけて、ブランド化させる商品も存在します。
スイーツマーケティングの難しさ
——最後にスイーツブームを作るために、マーケターが持つべき視点は何ですか?
金森:なかなか難しいですね。私は現職になる以前はコンサルティング会社に勤務しており、様々なメーカーから発注を受けて、「どうやってPRしていこうか」ということを一緒に検討していました。ただ、スイーツに関する発注はほとんどありませんでした。
その理由は「コンサルタント会社と話してもしょうがない」という意識が企業側にあったからです。冒頭にもお話ししましたが、スイーツの売れ方には法則性を見出すことは難しい。そのため、食品メーカー側はとにかく短いサイクルで商品企画を展開する“下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる”みたいな方法を選択し、今日においても同様の戦略を取っています。
とは言え、「自分が扱っている商品がどういうカテゴリーの商品なのか」「そのカテゴリーはどういう消費者がどういう購入過程を辿るのか」について熟慮することは大切です。そのうえで、あまり私の立場からは言いたくないのですが、自身の感性が重要になります。加えて、「これイケるかも」と思えば、すぐにテストマーケティングを実施するフットワークの軽さも求められるのではないでしょうか。