「つながり」の価値はモノやコトより上位にくる
MarkeZine編集部(以下、MZ):奥谷さんは2022年1月、顧客時間の岩井 琢磨さんとの共著『マーケティングの新しい基本 顧客とつながる時代の4P×エンゲージメント』(日経BP)を上梓されました。「顧客とのつながり」の重要性について言及されています。これはコミュニケーションの企画設計においても大事な指針になるのでしょうか?
奥谷:はい。これからのマーケティングでは、顧客とつながり続けるにはどうすればいいかを大前提として考え、商品やサービスの機能やブランドの体験を設計していくことが、売上向上の基本になると考えています。
つながり続けてもいいと思ってもらうには、「顧客価値」を提供しなくてはなりませんが、それは機能的な価値だけではありません。私たちは顧客価値を内包型ピラミッドの3層構造で捉えています。
商品やサービスの機能による「機能価値」は大前提として必要であり、それに加えてブランドとしての体験がつくる「体験価値」、そして上位概念としてもっとも重要な企業からの常時の提案によってつくられる「つながっている価値」。「つながっている価値」を明確に定義した上で、お客様とつながれるモノやコト(体験)提供が重要になるということです。
そして顧客との関係性を構築する上で、重要性を増しているのがオンラインIDの存在です。今までのマーケティングは、サードパーティデータを用いたり、TVCMのようなプッシュ型のコミュニケーションを行いながらの暗中模索のコミュニケーションが中心でした。これからは顧客情報、紙のDMで言えば住所や名前などのデモグラ情報を把握した上でコミュニケーションタッチポイントを増やしていく、顧客がつながり続けたいと思えるようなコミュニケーションを行う必要があると思います。そうでないと、いつまでも強いブランド力で新規顧客を獲得しつづけないと、成果は期待できない状態に陥ります。
DMが再注目される理由
MZ:顧客とつながり続けるという視点で見た時、顧客情報を把握することが第一のポイントになるのですね。デジタルとアナログというチャネルの使い方については、どのようにお考えですか?
奥谷:今は「アフターデジタル」という言葉で表現されるように、絶えずデジタル上に顧客接点がある状況に置かれています。そのため、デジタル・アナログ問わず様々なチャネルを駆使しながら、コミュニケーションの厚みをどう作るかが大事だと思っています。
そしてこの点において、DMが再注目される理由もあると分析しています。紙もテレビもネットも基本的に二次元のコミュニケーションであることに変わりありませんが、紙は実際に触れることができる。Eメールのようなデジタルだけのコミュニケーションの組み合わせは、どんなに特別なコミュニケーションを行なっても違いが伝わりにくく、ワクワクやドキドキが減っていってしまいますが、デジタル×DMの組み合わせとなると、触覚や嗅覚など五感を刺激して情報を記憶してもらえることがあります。
さらに最近のDMは、パーソナライズ化を目的としたQRコードやクーポンコードの付与が可能ですから、個人と企業をデジタルで直接つなぐことも可能になっています。だからこそ、アフターデジタルやOMO時代になってDMの価値が見直されているのではないでしょうか。
自社のコミュニケーションにDMを組み込む“極意”を紹介!
デジタル施策で思うような成果が出ない、様々なチャネルを掛け合わせてお客様とコミュニケーションしたい。そんな悩みを「デジタル×DM」でいかに解決していくか、奥谷氏と日本郵便の松本 俊仁氏が議論しました。こちらからホワイトペーパー「悩めるデジタルマーケターに捧げる“アナログの強み”『デジタル×DM』は、どうして成功するのか?」をダウンロードいただけます。
全日本DM大賞の応募作品に見る、各社のDM活用状況
MZ:奥谷さんは「第36回全日本DM大賞(2021年)」の審査員も務めていらっしゃいましたが、応募作品をご覧になった感想や、全体の傾向についてお話しいただけますか。
奥谷:今年に関して言うと、コロナ禍2年目ということもあり、やはり各社でDMが再評価され、様々な形で活用されている印象を受けました。マスクを着けた生活であったり人と対面する機会が減少したりと、生活が窮屈な中だからこそ、心を豊かにするDMを送ることで、お客様とのつながりが強くなるケースも生まれています。
コロナ前後で比較すると、コロナ前はコミュニケーションメディアが多様化した反面、どのチャネルに注力するのか、メリハリがつけにくい部分があったと思います。コロナ後は対面など一部の接点が使いにくくなったことで、DMのように今使える接点に注力し、積極的にノウハウを蓄積しようとする企業が出てきているのでしょう。
たくさんの企業が、オンライン広告に対して高額なお金を払っていますが、自分事化してもらうこと、気に留めてもらうことがなかなか難しくなってきています。一方、顧客データベースが構築されていて、セグメントできた状態のDMは大きな効果を発揮します。今のうちにWithデジタルでDMを通したマーケティングスキルを身に着けられると、その会社のマーケティング組織は強くなりますし、マーケターとしてもステップアップできます。そのため若い人にこそ、DMに挑戦してほしいと思っています。
WithデジタルでDMを展開するために
MZ:デジタルを活かしたDM施策を行うには、やはりオンラインIDの構築と、顧客データベースがあることが前提ですよね。
奥谷:そうですね、まずは良質な体験提供を通して、顧客データベースを構築していくことが何より大事だと思います。
すでにある程度状況が整っているならば問題ないのですが、そうでないのならば、やるべきことはデータを取りに行くか、すでにあるところと手を組むかの2択です。
前者の場合、まずはデジタルのタッチポイントを作ることです。たとえばECを構築し、利用してもらうことで顧客データを取得していく。その際に大切なのは、商品を買ってもらうことだけでなく、お客様に「デジタルを通じたつながりを持つと便利だ」と思ってもらうにはどうすべきかを考えることが必要でしょう。後者では、たとえばメーカーの場合で言えば、小売業が持っている顧客データの活用や、ポイントプラットフォーマーとの関係を強化していくなど、工夫が必要になります。
MZ:別の観点では、シナリオやクリエイティブなど制作面で悩みを抱える企業もありそうです。これに対してはどんな解決策があると思われますか?
奥谷:DMは新しく出てきた手法ではなく、これまでに様々なノウハウが蓄積されてきた、歴史ある手法です。過去のDM大賞の受賞作品を本で読んでみたり、DMによる顧客とのコミュニケーション販促のプロもいるので、そういう専門家や先駆的な事例を出している方に話を聞いてみてはいかがでしょうか。
ほかにも、届いた郵便物から自分の心に刺さったものがあれば、その理由を探ってみることからはじめてみて、紙というメディアにおいてブランドをどう表現すると自分たちらしいつながり方ができるのか、考えてみるのもいいかもしれません。
全日本DM大賞の受賞作品を用いて、DM企画・制作のポイントを解説!
デジタル施策で思うような成果が出ない、様々なチャネルを掛け合わせてお客様とコミュニケーションしたい。そんな悩みを「デジタル×DM」でいかに解決していくか、奥谷氏と日本郵便の松本 俊仁氏が議論しました。こちらからホワイトペーパー「悩めるデジタルマーケターに捧げる“アナログの強み”『デジタル×DM』は、どうして成功するのか?」をダウンロードいただけます。
最新のマーケティング研究からも、DMに活かせる知見を紹介
MZ:奥谷さんはマーケティング関連の研究にも造詣が深いですが、アカデミックな領域において、DMに活かせる知見はあるのでしょうか。
奥谷:それで言うと、上智大学の外川先生が行っている一連の研究は興味深いです。たとえば、手間をかけるほど愛着や評価が高まるという認知バイアスを「イケア効果」と呼びますが、紙にもこれに似た効果が見られると言います。DMを送られた人は“会社がわざわざつくってくれた印刷物”と捉え、他の広告と比べて「自分のためのものだ」と認識しやすい傾向があるそうです。DMには五感を刺激したり、デジタルと比べ多彩な表現ができるメリットがありますので、このような結果を踏まえて「では、どう設計するか?」がマーケターの腕の見せ所ですし、丁寧に設計すると、本当に面白いことができると思っています。
MZ:最後に、本日教えていただいたようなDM施策に取り組む企業やマーケターに対して、実践におけるアドバイスをお願いします。
奥谷:DMは印刷部数や発送にかかったコストが可視化され、デジタルと紐づければ配信後の反応も見えるシビアな世界です。それらの数字と向き合うのは勇気がいることですが、ここまでにお話しした内容を踏まえて、ぜひ挑戦してみていただきたいです。
実践の手がかりとしてもう1つ、近年消費者研究の領域で注目されているスマートショッパーという概念を紹介します。これは、消費者は自分自身の買物行動について「私は賢い(スマートな)消費行動ができている」と感じたい、という願望を持っている、という考え方を指します。それは単にお得であるとか、機能性が高いということだけではありません。DMで言えば、それがカバンに入っていてもカッコ悪く見えないか、それを受け取って特別感を持てるか、といったことに、気を遣うと良いと思います。それができると、“スマートコミュニケーションツール”としてのDMの可能性も見えてくると考えています。
デジタル×アナログは組み合わせる時代へ。今知っておきたいDMの底力
デジタル施策で思うような成果が出ない、様々なチャネルを掛け合わせてお客様とコミュニケーションしたい。そんな悩みを「デジタル×DM」でいかに解決していくか、奥谷氏と日本郵便の松本 俊仁氏が議論しました。こちらからホワイトペーパー「悩めるデジタルマーケターに捧げる“アナログの強み”『デジタル×DM』は、どうして成功するのか?」をダウンロードいただけます。
★コンテンツの見どころ
(1)全日本DM大賞 受賞作品にみる学ぶべきポイント
受賞作品は、デジタルとの組み合わせ方が評価されつつある! 日本ロレアル、DINOS CORPORATION、オムロンヘルスケア、味一番などの実践を紹介。
(2)デジタルマーケターの課題を切り開くポイント
コスト効率はデジタル、効果はDMという考え方。両者をいかに使い分けるかを議論。
(3)「デジタル×DM」実践に向けてのポイント
生活者に寄り添うコミュニケーションを実現するために。
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