マーケターは「自分の型」を作るべし
──中村さんは、若手時代をどう過ごしていたのでしょうか。
中村:まずは、「執念を持って結果を出す仕事をする」こと。たとえば前職では、いろいろなカテゴリーで新商品が出るのですが、新商品の成功確率が全社的に悪化した時期があり、社長直下で全社プロジェクトのリーダーになったことがあります。それぞれのカテゴリーで、自分よりも熟知しているゼネラルマネージャーの猛者たちと渡り合うために、成功・失敗要因を突き詰めて考え続け、また、生産部門やファイナンス部門、マーケティング部門含め全部署を巻き込み、プロジェクトを遂行することができました。大きな権限とプレッシャーのもとで執念を持って仕事し、結果にこだわってやり切った成功体験ですね。
キャリア形成の観点で言えば、「自分の型を作る」ことにこだわりました。これにもP&G時代の原体験があります。ものすごく優秀な先輩を目の当たりにして挫折していたとき、当時の上司に「あなたは彼のようなサラブレッドになれない。だけど、道なき道を作るのはあなたのほうが上手いと思う」と言われたんです。これを聞いて「そうか、先人たちの成功ケースをそのままなぞる必要はないのだ」と気づきました。それからは、成功ケースをそのままなぞるのではなく、自分なりの仮説検証を意識して取り組むようになりましたね。
──マーケターとしてのスキルアップにおいては、どんな努力をされてきましたか?
中村:これまでのお話と重なる部分もありますが、3つあります。1つ目は、まずビジネスパーソンとしての成長をすること。結果思考で考え、マーケティング分野でのスキルを身につけ、それらを活かして他部門とのコラボレーションをすることです。今でも覚えているのが、前職でのフィードバックで各部署のトップの方々から「中村は消費者市場戦略本部としては優秀だが、もうちょっとファイナンスや営業の現場がわかるだけで結果が変わると思う」と言われたことです。これは自分にとって良い気づきでした。それぞれの部門がどういうロジックで考えて行動しているのかに興味を持ち、協働を探っていくことが重要だと思います。
2つ目は、自分の型を常に意識していくこと。足立光さん、伊東正明さん、音部大輔さんや森岡毅さんといった敏腕マーケターの皆さんはP&Gの先輩でもあるのですが、彼らの考え方が必ずしもP&Gで学ぶマーケティングとイコールではなく、かつそれぞれ違いがあると気づいたことが大きかったです。もちろんコアとなる部分は同じですが、最終的には自身の強みを活かした型になっている。だから自分も、10年後や20年後に「中村流マーケティング」と言われるとしたら、どんなものになるだろうと考えながら自分の型を作るようにしたのです。
3つ目は、より良い仮説・検証・体系化を常に意識することです。そのためにいろいろな工夫をしてきました。たとえば、仮説立てのために数学モデルを使ったり、グローバルの方と話をして海外の情報を収集したり。あとは学術論文を読むことでアカデミック分野も情報源にしました。いろいろなインプットで仮説を立てた上で、因果関係を強く意識した検証を行っています。体系化については、自分なりにまとめたものを社内の人に発表する機会を作るなどして鍛えていきました。