デジタルは「大変」という現場の声に向き合う
緊急事態宣言の発出で一気に進んだ三越伊勢丹のデジタル推進。しかし、少しずつ店頭に顧客が戻り始めた昨今、店頭での業務の中でデジタルの取り組みが「大変」という声が出始めた。
そんな中、DXには2つの側面があるのではないかと升森氏は指摘する。
「DXとは効率化することだけではなくて構造を変えること。デジタルで業務の無駄を解消することも重要ですが、今までよりできることを広げるのも非常に重要ではないかと、現場と会話しています」(升森氏)
もちろん現場の大変さも理解できる。升森氏の立場では、まずは現場の困りごとを解決するスタンスで寄り添うことが必要だ。その中でも「前向きな人は必ずいるので、そういったメンバーと小さな成功体験を積み重ねて広げていくことが重要」と話した。
ゴールは「お客様の選択肢を増やすこと」
今後のMIRSの展開について升森氏は「UIなどアップデートしなければいけない点はあるが、様々な機能と運用を組み合わせていくことで新たなことができる可能性を感じている。店頭の良さをオンラインに拡張できると考えています」と前向きに語る。
既存の機能のさらなる活用法として、3つ紹介した。1つは、未代取置・代済受取。MIRSではチャットでコミュニケーションが取れるため、実際に試着してから購入したい顧客からオンラインで取り置きの依頼を承り、その後店頭で決済してもらうことが可能。また逆にオンラインで決済した商品を店頭で受け取ることもできるわけだ。
2つ目は、オンラインカタログとしての活用。MIRSの「スタイリスト投稿」という、販売員がその場で撮影した商品を即時にWebページへ投稿できる機能を使えば、ECサイトよりもリアルタイムで商品を掲載でき、問い合わせにも対応できる。
3つ目は、デジタル取り置き。来店した顧客が自宅でゆっくり検討したい場合、スタイリスト投稿機能を使い、顧客に商品情報を共有しておく。すると再度来店しなくてもオンライン上で相談、購入することができるという活用法だ。
このように「デジタルの即時性や、店頭のスタイリストの魅力を活かすことを意識しながら様々な施策を組み上げていきたい」と升森氏。最終的なゴールは、「お客様の選択肢の幅を増やすこと」だと語る。
「店頭の体験、オンラインの体験、その間にあるシームレスな体験。お客様にお選びいただく選択肢を増やし、そのためにスムーズな導線を作ることが大切だと考えています」(升森氏)
そのために、オンラインストアやリモートショッピングアプリなど、様々なデジタルツールを使い店頭とオンラインをつないでいく。そのデータ基盤として、顧客のデジタルIDを把握し最適なアプローチをする。取り組み先の企業も巻き込んで、WIN-WINの関係性を作っていくと展望を説明した。
また、デジタルは手段であり目的ではないということも強調。「デジタルを目的にした瞬間にお客様とのニーズとはかけ離れていくと感じている」と実感を語り、この点を意識しながら上述の姿を目指していくとした。
最後に升森氏は以下のように語り、セッションを締めた。
「今回紹介した新しいデジタルのツールをフックに、接客の形を、お客様お一人おひとりに向けて変えていきたい。店舗の強みをオンラインに載せていくという本日の内容が、少しでも皆さまのご参考になれば幸いです」(升森氏)