「笑いの短尺化」が進む世界
まず笑いについてですが、2021年から目にする機会が増えたのが「短尺フォーマット」です。これは、2021年に放送されたあるテレビのバラエティ番組内で「30秒以内のネタで笑わせる」という企画をきっかけに広がったもので、この番組以降「短尺でいかに笑いをとるか」を競う類似の企画が増えたように見えます。
実際、この「短尺化」の流れはお笑い芸人のネタ作りにも影響を与えているのでしょうか。若手お笑いコンビ『ふわふわマカロン』のお2人(はるかさん・しんやさん)に話を聞いてみたところ、確かに「笑いまでのスピードがどんどん上がっている」と言います。
具体的には、フリからオチまでの時間を短くし、ネタの中身も「一芸のインパクト」や「一瞬の裏切りによる驚き」など、とにかく短い時間の中で笑いを最大化させることを大事にしているということでした。
そして、こうした短尺化の背景にあるのは、TikTokやYouTubeショートなどSNSにおける短尺動画の盛り上がりだと話しました。
お笑い芸人の知名度を上げる方法としてひと昔前まで王道であったコンテスト上位にランクインしてテレビに出演するというルートの他に、最近ではSNSで話題になってフォロワーを獲得し、そこからテレビへ出演という道が生まれつつあります。そのため、SNSのフィードに数多ある動画の中で注目を集めようと、短い時間でインパクトを残すような笑いをつくるようになっていく傾向があるということでした。

「すぐに」心が動かないなら即スワイプ
この笑いの短尺化について、SNSを見ている側のインサイトはどうなっているでしょうか。
実際に、TikTokやYouTubeショートの動画を見ながら考えてみます。これらのアプリにはジャンルを問わず様々なタイプの動画がアップされていて、スワイプし続けるとほぼ無限に新しいコンテンツが出てきます。すると、最初の数秒で興味がわかない動画は最後まで見ずともスワイプして次に進む気持ちがはたらきます。
なぜなら、目の前の動画には「おもしろくなさそう」という可能性が見えているのに対し、まだ見ていない次の動画には自分の興味をひく可能性があると思えるからです。
普段からTikTokやYouTubeショートの動画をよく見ているという20代前半の知人に話を聞くと「その動画を自分が好きか嫌いか早く知りたい」「見たいコンテンツがたくさんありすぎて大したことないものに時間を割きたくない」と、象徴的な意見をもらいました。
「すぐに」自分の心を動かさない動画に時間をかけたくない、最後まで見ておもしろくなかったとがっかりしたくない。このインサイトが、笑いの短尺化の背景にあると見えました。そして、この影響が笑いに限らないことは容易に想像できます。
