※本記事は、2022年6月25日刊行の定期誌『MarkeZine』78号に掲載したものです。
特集:現場に再現性をもたらす マーケターが知っておきたい手法&フレームワーク
─ 音部大輔氏が考える、マーケティングにおけるフレームワークの有効性 実務に活かすためのポイントは?(本記事)
─ 顧客視点で“つながる意味”を再考する「4P×エンゲージメント」
─ マーケティングにはファンダメンタルズ×テクニカルの両輪が欠かせない
─ ヒットを生み出すリサーチ術とは? 正しい「ターゲット」「セールスポイント」を見つける3ステップを解説
─ マーケティング・ミックス・モデリングを正しく行うためのヒント
─ マーケターがクリエイティブを「見る」「評価する」「議論」する時の基本姿勢
フレームワークは「経験値の塊」である
──はじめに、マーケティングにおけるフレームワーク活用の有効性について、音部さんはどのようにお考えでしょうか?
そもそもフレームワークというのは、「仕組み」か「働きかけ方」のいずれかを汎用化したものであることが多いです。このうち「仕組み」というのは、活動計画の前提となる公理や公式のようなもので、マーケティング4PやAIDMAなどはこちらにあたります。
もう一つの「働きかけ方」は、活動計画を立てるときに役立つ普遍的な考え方や手続きのことをいいます。自著『The Art of Marketing マーケティングの技法』で解説したパーセプションフロー・モデルやブランドホロタイプ・モデル、あるいはWho/What/Howやマーケティング・ミックス・モデリング(MMM)のような手法も調査の働きかけ方という意味でこちら側に含まれます。また、世の中に広く知られていないだけで、会社によってフレームワーク化されている「働きかけ方」はたくさんあります。たとえば、新商品を開発するとき、どのタイミングでアイデアを出して、いつまでにクオリファイし、どういう会議体で進めていくか、といった手続きは各会社で決まっているでしょう。こういったものも働きかけ方のフレームワークであると言えます。
そして、「仕組み」と「働きかけ方」のいずれのパターンであっても、基本的にフレームワークは、過去の経験を帰納的に蓄積することで形成されています。ちなみに、現代我々がするほとんどの体験は二次体験です。二次体験とは、自分以外の誰かの経験を自分の経験知識として獲得することを指します。マーケティングにおいても、自分で直接体験して得る知識より、書籍やネットで読んだり、先輩に聞いたりして得る知識のほうが多いですよね。
つまり、過去の学びや知見、成功や失敗のエッセンスなどを反映させた「経験値の塊」がフレームワークなので、“しっかり作られたフレームワーク”は使えるほうが絶対に有利です。100時間かけて得られたラーニング、または100人分のラーニングをもって作られたフレームワークに一人でたどり着くのは大変ですが、フレームワークを使えば、100時間かけずしてそこにたどり着けるのですから。