「丁寧な暮らし」の類似ワードから生活者の価値観を可視化
稲葉氏は「類似ワードの検索」機能を活用した事例も紹介。この機能は、特定のキーワードに類似するワードの検索結果をピックアップするものだ。花王では「丁寧な暮らし」をキーワードに設定の上、類似ワードの検索結果を表示。すると「ミニマルライフ」「シンプルな暮らし」など、雑誌の特集などでも見られるキーワードが上位に並ぶ一方「自分を大切にする」というキーワードもトップ10に入った。
この結果を受け、花王では「丁寧な暮らしの背景に『自分を大切にする』という価値観が隠れているのではないか」と推察。伊東氏は「ブランドのメッセージに対する生活者の価値観を、具体的なワードで可視化できる点にDockpitの強みがある」と解説する。
データ分析で気を付けたい三つのポイント
一連のデータ分析を通じて顧客理解を行うにあたり、稲葉氏が気を付けていることを3つ紹介。一つ目は「すべてのデータには条件があり、何かしらのバイアスがある点を忘れない」ということだ。
「様々な取得方法によるバイアスを忘れず、正しくデータを読み解いて生活者の本音に迫るように意識しています」(稲葉氏)
二つ目は「アウトプットを分析手段から考えない」ということ。何を実現するためのデータ分析なのか、見極めることの重要性を次のように語る。
「単にデータを収集・分析すれば何かが見えてくるはず──そう考えがちですが、データの収集・分析業務は非効率に陥りやすいため、仮説を立ててから分析に着手することが重要です」(稲葉氏)
三つ目のポイントは「自分自身が生活者である意識を忘れない」ということだ。日々の生活の中で自分自身が感じる感情や違和感を敏感に捉えながら「データを読み解く視点を磨く必要がある」と稲葉氏。その姿勢が生活者のインサイトを見出し、新しい発想を生み出す力になるのだという。
「単純にビッグデータを分析しても、新しい発想は生まれません。チーム全員で、日常の気づきをデータ分析の視点に取り入れられるよう取り組んでいます」(稲葉氏)
セッションの最後に、稲葉氏は自身が所属するDX戦略推進センターのミッション「花王をユーザーエクスペリエンスを中心としたUX創造企業にすること」に立ち返りつつ、次のようなメッセージを投げかける。
「D(デジタル)とX(トランスフォーメーション)においては『X=変革を起こすこと』の方が圧倒的に大事であると考えています。企業には顧客体験を変革し、生活者のリアルな行動や声からスピーディーに価値を発見することが求められているのではないでしょうか。顧客を中心としたデータドリブンなマーケティングに、今後も努めていきたいと思います」(稲葉氏)