リテールデータを活用した支援に強みを持つフェズ
MarkeZine編集部(以下、MZ):皆さんの業務内容について教えてください。
中村(コーセー):私はコーセーで、デジタル媒体をはじめとしたコミュニケーション全般を担当しています。
倉迫(Facebook Japan):Facebook Japanで、コーセーさんのような店頭購入が多いブランド広告主様に対し、データドリブンマーケティング戦略や調査デザインのコンサルテーションを行っています。
簡野(Facebook Japan):同じくFacebook Japanで、主に化粧品業界をはじめとした消費財系のブランド広告主様に対して、FacebookやInstagramなどのプラットフォームを通じたビジネス成長の戦略立案、マーケティング・コミュニケーションプランニングをサポートさせていただいております。
安藤(フェズ):私はリテールプラットフォーム「Urumo」を提供するフェズで、リテールデータを使った広告分析や、配信の効果改善ができるソリューションの企画責任者をしています。「オンラインでの活動が実店舗での購入にどう結びつくのか」「そもそも広告の効果をどのように分析すれば、マーケティングのPDCAサイクルを回せるのか」といった課題を解決する商品やサービスを開発しています。
「店舗で実際に試したい」という消費者インサイト
MZ:急速なデジタル化やコロナ禍による影響を受け、消費者の購買行動は変化したように思われますが、皆さんの意見をお聞かせください。
中村(コーセー):広告主の視点でいうと、消費者の価値観はさらに多様化したように思われます。ECやD2Cなどの新たな販路やビジネスモデルが拡大したことにより、EC専門のブランドも増えました。その結果、消費者にとっては選ぶブランドの「選択肢」が明らかに増えましたね。
また、消費者へのアプローチ方法としてデジタルへの注目が集まっていますが、やはりオフラインもまだまだ重視されていると私は感じています。実際、当社においても実店舗の売上が今なお大きな比重を占めているからです。
倉迫(Facebook Japan):当社とニールセンで2016~2021年、消費財に関する調査を実施しました。その結果、2016年はオフラインの比重が高かったのに対し、コロナ禍になるとマルチチャネルが増えてきたことがわかっています。
しかし、コロナの感染拡大が一旦落ち着いた2021年頃には米国と日本の消費のされ方に違いが見られました。米国ではオンライン・オフラインのチャネルをデュアルで使い続ける人が継続して多かったのに対し、日本では特に美容関連の商品を「実際に試してみたい」と考え、店頭に回帰する人も一定数存在していたのです。
この結果から、日本においては現状「オンラインで情報を取りつつも、最終的な購買は実店舗で」というケースが多いということがわかります。つまりマーケターは「オンラインtoオフラインコンバージョン」を想定して施策を考える必要があるでしょう。
安藤(フェズ):リテールプラットフォーマーの立場としても、同じ意見です。年代を問わず、生活者のほとんどがスマートフォンをはじめとするデジタルデバイスで情報を得ることが当たり前となりました。それでもなお、日本の実店舗はどこも便利に買い物ができ、質の高い購買体験が得られる。そうした背景もあり、実店舗の価値はウィズコロナ、アフターコロナでもそう変わらないと見ています。
ブランド広告を継続出稿していた企業の好意度は高い
MZ:オンラインと実店舗の双方を意識した顧客の体験設計──いわゆるOMO施策を考える上で、マーケターにはどのような視点が求められるでしょうか。
倉迫(Facebook Japan):オンラインtoオフラインコンバージョンを前提とした場合「SNSやWeb広告などを見て、実店舗でブランド好意度の向上ないしは購買につなげる」といった体験をマーケターは設計する必要があります。そこで大事なのが「ブランディング」と「売上」を分けて考える視点です。
コロナ禍では、業績悪化により広告予算を大幅カットした企業が散見されました。その結果、短期的には広告に掛ける費用が減るわけですからROIは向上したでしょう。しかし、それで「100%よかった」とは言い切れません。カンター社が行った調査「ブランドZ」においては「ここ10年継続してブランド広告を出稿していた企業の方が好意度は高い」という結果が出ました。
倉迫(Facebook Japan):この結果から、長期の目標としてのブランディングと短期の目標としての売上を別々に考える必要性が見てとれます。別々に考えた上で、売上ばかりに目を向けるのではなく、長い目で見てブランディングをすること、つまりLTVを高めることで長期的な売上にもつながると考えます。
中村(コーセー):そうですね。そもそも我々が扱っている「化粧品」という商材は「1回買ってもらえればよい」ものではありません。「お客様に化粧品を通じて喜んでもらう」という姿勢が根幹にあることは今後も変わらないと考えます。
売上につながる指標を見抜くことも重要
MZ:LTVの最大化のためにブランディングが重要である一方「売上やコンバージョンへの貢献度」という指標も、施策を継続して展開する上では重要だと思います。
簡野(Facebook Japan):消費財を扱う企業様では、テレビをはじめとするマスメディアに広告を出稿するケースが多く見られます。デジタルメディアはマスメディア以上にインプレッション数やエンゲージメント率などの「指標」が多いため、現場のマーケターは「どの指標を評価したらよいのか、どの指標が高ければ『売上に貢献した』といえるのかわからない」と混乱しがちです。そうした意味で、デジタル広告の効果の指標と売上やコンバージョンとの相関関係をマーケターはきちんと把握しておくべきでしょう。
安藤(フェズ):そうですね。たとえば組織の経営層に施策の成果を伝える際にも「広告費として100万円を費やした本キャンペーンですが、結果的にクリック数は●●でした」と伝えても、経営層は正直「?」でしょう。売上という指標を示すことは、社内稟議を通す際にも重要だと思います。
「Urumo Ads」で広告接触者のオフライン購買が分析可能に!
MZ:今回、フェズのUrumoとFacebook、Instagramがデータ連携したと伺いました。具体的にどのようなことが実現可能になったのでしょうか。
安藤(フェズ):広告接触者のブランドリフト値の計測・分析のみならず、実店舗での購買効果や売上実績までを一気通貫で計測・分析することが可能になりました。フェズが展開する日用消費財メーカー向け広告ソリューション「Urumo Ads」において実施する広告施策が対象です。
倉迫(Facebook Japan):今回のデータ連携により、店頭購入検証にも「リフトテスト」の活用が可能となりました。リフトテストとは、施策の純増成果を計測するもので、態度変容のみならず店頭購入への貢献を可視化します。当社では実験計画法を用いているため、広告の接触/非接触の条件以外はまったく同じ環境下で調べることにより、精度の高い効果の測定を実現します。
また、キャンペーンごとに計測・分析できる点もポイントです。消費財系メーカーの場合、施策やメディアがオフライン購買にどうつながっているかを包括的に検証する際にはMMM(※)を用いることが多いのですが、MMMは手間がかかり、年に1回ほどしか実施できないため施策ごとに振り返ることが難しい現状があります。
※マーケティング・ミックス・モデリングの略称。広告などの施策がどれだけマーケティングの成果に影響を与えたのかを推定できるように、マーケティング施策のデータを統計的に分析して、モデル化する手法
安藤(フェズ):その点、Urumo Adsでは認知度や好意度の引き上がりが購買に直接紐づくキャンペーンと、紐づかないキャンペーンを施策ごとに分析できます。「ブランディングにも売上増加にも貢献できた施策であったか」「どちらか片方の効果に寄ってしまった施策であったか」など、施策の成果をより細かく、かつ短いスパンで解明することが可能です。
小売業界全体の活性化を目指す
MZ:コーセーではスキンケアブランド「雪肌精」において、既にUrumo Adsを導入したと伺いました。導入の決め手を教えてください。
中村(コーセー):主に2つあります。1つ目は、広告効果の検証精度が高い点です。同じグループで広告接触層・非接触層別にブランドリフトやコンバージョンの差を調べられるのはありがたいですね。
中村(コーセー):2つ目は、広告がどう売上につながっているのかを細かく見られる点です。たとえば、クリエイティブ別やフリークエンシー率、時間帯別に売上を確認できます。
これからは、Urumo Adsと従来のアスキングベースの調査やMMMを組み合わせながら、多面的に全体感を見ていこうと考えています。消費者の長期的な気持ちの変化を見つつ、各キャンペーン、特に広告配信において認知や好意度と購買との相関をファネルごとに探っていく方針です。
MZ:最後に、皆さんの今後の展望を教えてください。
中村(コーセー):今後も売上至上主義に陥ることなく「化粧品を通じてお客様を幸せにできているか」を忘れずマーケティングに取り組んでいきたいと思います。
簡野(Facebook Japan):マーケティングにおけるInstagramの価値は「好きと欲しいをつくる」です。消費者が好きなものに偶発的に出会い、“好き同士”がつながる場の提供を通じ、ブランド広告主様がさらに効果的なマーケティング活動を行っていけるプラットフォームとして、今後成長していきたいと思います。
倉迫(Facebook Japan):プラットフォーマーとして広告を配信するのみならず、クライアントに対し、FacebookやInstagramが持つ売上やブランディングへの貢献度合いを可視化する取り組みも今後強化していきたいと思います。
安藤(フェズ):小売企業やメーカー企業へのマーケティング支援を通じて、消費者が「買いたくなる」と思う瞬間を増やしていきたいと思います。その結果、クライアントの短期的な利益創出のみならず、LTVの最大化を支援することにつながり、ひいては小売業界全体の活性化につながると信じているからです。