いかに良質なデータを送り、広告最適化を活用できるか
──これまでの経歴や現在どのような業務を担われているか、お聞かせください。
日野:私は2017年にセプテーニへ入社し、当初はデジタル広告の計測関連の支援に従事していました。2019年から広告主である企業様が保有するデータのマーケティング活用を支援しています。主に機械学習を活用した広告運用最適化ツールPrecogをはじめとしたデータソリューションでの提案・開発を行っています。
──現在の運用型広告の潮流・課題を教えてください。
日野:運用型広告が出始めた当初、広告効果を高める要素として、運用レバーを細かく調整することが重要となっていました。しかし現在では、どの広告媒体も自動最適化が大きく進んでいるので、その機能を最大限活かすことができるかということが成果につながります。そのため、「いかに良質なデータを広告媒体に送り、最適化機能をより促進していくか」が重要です。
そこで課題となってくるのが、各広告媒体に送るデータの質です。タグ計測などオンライン上で取得できるデータはもちろん媒体へと送信することができるのですが、実店舗での成約のようにオンラインで計測できないコンバージョン(オフラインコンバージョン)データを広告媒体に連携することは簡単ではありません。
しかし、そうした企業様のビジネスKPIに近いコンバージョンこそ、良質なデータとなり得ます。またデータもただ多く送ればいいというものではなく、自動最適化していくにあたって必要なデータのみを送るということもポイントです。
自動最適化のための学習範囲にデータを含ませることが必須
──他にも、課題となる点はありますか。
日野:各広告媒体において、自動最適化を機能させるためには一定のコンバージョンデータが必要になります。コンバージョンデータが週に何件以上、あるいは月に何件以上ないとうまく機能しない、ということです。そのため、必要なデータの量を満たすのが難しいという課題をお持ちの企業様もいます。
他にも検討期間の長い商材などでは、コンバージョンに至るまでにかかる時間が課題となっているケースもあります。広告に接触してから一定期間以上経ってしまうと、たとえコンバージョンが発生したとしても、その広告媒体の自動最適化のための学習範囲に含まれないという仕組みになっているからです。
──どのくらい検討期間がかかってしまうと、コンバージョンが自動最適化機能に反映されなくなるのでしょうか。
日野:広告媒体によって異なりますが、1週間程度のところが多いです。特にWeb広告で訴求したあとに実店舗でコンバージョンするという業態の場合には、日数を要するケースが多いです。そのため実店舗でコンバージョンしたという良質なデータを送ることができたとしても、自動最適化機能に反映されずうまくワークさせることができなくなってしまいます。
データ連携と予測機能で運用型広告の課題を解消
──機械学習を活用した広告運用最適化ツールPrecogについて教えてください。
日野:Precogは、広告主である企業様が保有しているデータを活用し、広告配信やCRMなどのマーケティング効果を高めるソリューションツールです。
大きく2つの機能がありまして、1つ目は広告主が保有しているデータの中から良質なデータを取捨選択して、広告媒体に連携することができる機能です。そして2つ目は、各ユーザーの顧客定着につながる様々なアクションを予測する、予測スコアリング機能です。
──予測スコアリング機能とは、どういったものでしょうか。
日野:企業様の保有しているデータや、タグなどオンライン上で取得できる情報を元に、そのユーザーが購入や来店といったKPIとなるアクションに至る確率を機械学習によって予測するというものです。これらの情報を主要広告媒体と連携し、配信に活用することで、各種KPIに応じた質の高いアプローチをより効果的に行うことができます。
──Precogでは、先ほどお話しいただいた運用型広告の2つの課題をどのように解決しているのでしょうか。
日野:1つ目のオフラインのような良質なデータを広告媒体に送信することが難しいという課題については、Precogでは各種広告媒体とのAPI連携機能を有しておりますので、広告主様側で複雑なAPI実装やエンジニアリソースを確保する必要がなく、簡単にデータ連携することが可能です。
2つ目の課題として挙げたコンバージョンの量と検討期間については、Precogの予測スコアリング機能によって解消することができます。予測確率のスコアが高いユーザーを本来のコンバージョンに含める形でデータ連携することで、コンバージョンの質を担保しながら、量的課題にも対処することが可能です。
──どのような業種・業態の企業に活用されているのでしょうか。
日野:Precogのデータ連携機能や予測スコアリング機能は、幅広い使い方ができるので、業種・業態を問わず様々な企業様にご利用いただいております。現在までに数十社の企業様にご利用いただき、好評をいただいております。これまでお話ししたように、実店舗でのコンバージョン導線がある企業様のご活用も増えておりますが、もちろんECやアプリサービスなどオンライン上で完結するビジネスでも多くご活用いただいております。
アプリサービスの場合、インストールからコンバージョンとなるアプリ内課金に至るまでに時間がかかることもあるので、それを予測機能によってコンバージョンのデータを送信することで広告の自動最適化にご利用いただいています。
優良なデータの送信を行い、Yahoo!広告にて来店コンバージョンが17%向上
──Precogを活用したお取り組み事例について教えてください。
日野:高価格帯商品の買取サービスを展開する企業様では、Web上で「査定申込」をした後、電話で「査定予約」をして、出張での「査定および買取」を行うというビジネス導線になっています。
従来はオフラインのコンバージョンデータである「査定予約」を運用型広告と連携することができなかったため、オンラインで計測可能なWeb上での「査定申込」をコンバージョンとして広告配信に最適化をかけてきました。しかし申込後、「査定予約」に至る転換率に課題がありました。
そこでYahoo!広告のオフラインコンバージョンのインポート機能とPrecogのデータ連携機能を活用し、「査定予約」を毎日Yahoo!広告へ自動送信するような仕組みを構築しました。それにより「査定予約」をコンバージョンとしてYahoo!広告の自動最適化を機能させることができました。その結果、「査定予約」への転換率が改善し、予約数は約17%増加、獲得単価は約13%改善できました。
データ量の不足を改善し、転換率が約6pt改善
──他にはどういった事例がありますか。
日野:化粧品通販をされている企業様でのお取り組みでは、ビジネス導線がWeb上で完結するサービスで、初回トライアル購入を経て、その後継続購入に至る形となっていました。そのため、初回トライアル購入から継続購入まで、約30日のタイムラグがあるのですが、これまでは初回トライアル購入をコンバージョン地点として広告の最適化を行っていました。
しかし初回トライアル購入のあとに継続購入に至ることが本来のコンバージョンであるため、初回トライアル購入から継続購入への転換率が課題となっていました。
そこでPrecogの予測スコアリング機能により、初回トライアル購入ユーザーを対象に継続購入する確率を予測。継続購入確率が高いユーザーをコンバージョンデータとして広告媒体に送信しました。
その結果、継続購入への転換率が約6pt上がり、獲得単価は約33%改善できました。
いずれの事例も、Precogを活用し、その企業様の本来の目的に合った「質の高いデータ」を広告媒体に連携することで、広告効果を改善することができました。広告媒体の機能だけでは解決できない課題に対し、このような独自ソリューションによるサポートが有効であることを示せた結果だと思います。
最先端の広告運用で、本来の成果に直結させる
──広告媒体の特性を生かした細やかなデータ連携が必要なのですね。
日野:そうですね。各企業様によって異なる課題に対して、どのようなデータを連携し、広告媒体のどの機能を活用し、システム開発を行うか、など解決の難易度は高いと言えます。したがって課題解決を行うためにも、各広告媒体の特性を熟知し、最新情報やナレッジなどをしっかりと保有するデジタルマーケティング支援企業にお任せいただきたいと存じます。
──最後に、今後の展望についてお聞かせください。
日野:現在、Cookie規制などによりデータ取得が制限されている潮流もあり、企業様が保有している1st party dataをマーケティングに活用していくことはスタンダードになっていくと考えています。また、実店舗のコンバージョンデータなどを取得できないがゆえに、本来ビジネス的に追求したい部分より手前のCPAで広告運用を進めている企業様は、まだまだいらっしゃると思います。そうした企業の方にもPrecogをご活用いただき、データ連携機能や予測スコアリング機能を活用することで、より本来のビジネスに近いマーケティングができるようご支援していきたいと考えています。
またセプテーニでは、Precogによる広告マーケティングだけではなく、CDPやCRMなどマーケティングにおけるデータ活用を包括的に支援させていただいております。今後も企業様のデータ活用支援に注力していきたいと考えております。