プロセス1:ざっくりセグメンテーションと市場規模把握
まずプロセス1では、顧客をざっくりとセグメンテーションする。そして、そのターゲットがどこにどれだけの人数がいるのかといった、市場のボリュームを把握する。ボリュームを把握しつつ的確なターゲットに狙いを定めていくのが最初の段階だ。
ここでは、ターゲットを不要に狭めすぎないために、「ざっくりとしたセグメントを行うことがポイント」だと阿佐見氏。そして、このざっくりセグメントの切り口は二つあると説明した。
1.ターゲットのプロフィールでセグメンテーションする
切り口1は、ターゲットのプロフィールでセグメンテーションするもの。ここでは、理想顧客か実購買顧客の性別・年齢でセグメンテーションするか、ライフステージでセグメンテーションする。あるいは、価値観・行動でセグメンテーションする。
理想顧客とは、市場への波及効果が期待できる性別・年齢層のことで、たとえば、「商品の価格的に、20代以上で稼ぎのある社会人がターゲット」という考え方ができる。実購買顧客とは、自社として盤石に囲い込みたい実質購買層のこと。たとえば「売上につながる有料会員は30~40代なので、この層を増やしたい」と考えることができる。
また、ライフステージの変化のタイミングが多様化している昨今、たとえば妊娠・子育て世代を年齢で区切るのは難しい。そういった場合、ライフステージでセグメンテーションする必要がある。その他にもプロフィールでのセグメンテーションには、よく遊んでいる地域や職業、家族構成、年収といった属性も活用できる。
一方、価値観・行動でのセグメンテーションというのは、上記の属性が異なっても、価値観や行動が同じ人たちをひとつのグループとして捉える方法だ。同じ価値観や経験を持つ人といった特徴をハッシュタグのようにつけていくことで、ターゲットの見落としを防ぐことができる。図表2のように質問を用いて、タグをつける方法がある。

2.商品への関与度でセグメンテーションする切り口
切り口2は、商品への関与度でセグメンテーションするものだ。商品・サービスに対する認知、利用状況をマーケティングファネルを用いてセグメント化する。主なやり方として、三角ファネルで認知層、興味関心層、購入意向層……とシンプルに分けていく方法と、特に商品の利用状況にフォーカスしたセグメントの方法(利用中か利用中止か、あるいは利用経験なしか等で分類)が紹介された(図表3)。

ここまででいくつかセグメントの要素が出てきたら、戦略的に一番動かしたい「メインターゲット」とその次に優先したい「サブターゲット」を決める。阿佐見氏は、「メインターゲットに強く刺さる商品を目指しながら、サブターゲットに対しては嫌われないようにするラインを守る」ことが重要だと説明した。
プロセス1では「あくまでざっくり」セグメンテーションすることがポイントなので、たとえば「20~30代の女性で、最低限の美容には気を使う価値観を持っていて、自社の商品はまだ使ったことがない人」といった形で、1~3個程度の条件を設定するのが適切だ。それ以上条件をつけると絞り過ぎになってしまうという。
市場ボリュームを推計する
このようにセグメントしたターゲットと、人口推計のデータとを掛け合わせることで、市場規模を推計できる。阿佐見氏は、年齢別の人口分布を知ることができる統計データとして2種類紹介した。「推計人口」(総務省統計局)と「国勢調査」(総務省統計局)だ。推計人口の全国のデータは毎月更新される。国勢調査は5年に1回とスパンは空くが、家族構成や就業状況などの細かいデータまで載っている。
5つの顧客の構造化パターン
さらに、ざっくりセグメントを決めるための、顧客の構造化のパターンとして、阿佐見氏は図表4の5パターンを紹介。その使い分けについても触れた。

②の三角ファネルは、ファネル転換の効率を分析するのに活用される。たとえば、認知から興味関心に移り変わる際に効率がよいのか悪いのかを見る場合に役立つ。①のオイラー図・ベン図もファネルと似た構造をしているが、ファネルの中でどこにボリュームゾーンがあるのか分析したいときに活用するとよい。たとえば、認知者の中にさらに特定の機能の認知者がいて……といった重なりを表現したいときに有効だ。
③4象限のマトリクスに関して、阿佐見氏は「シンプルに情報を整理できるが、2軸の選び方というのが非常に難しく、失敗すると意味がない」と強調。LAND分析のように2軸が決まった4象限マトリクスがあるので、活用するとよいとした。④ピラミッドは、頂点にいるインフルエンサーとそのフォロワーである多数の人、という構造が明らかなときに有効だ。
そして⑤ツリーは、ターゲットを細分化する必要があるときに便利である。たとえば、保険商材のターゲット分析で活用されることが多い。家を買うことを検討している・いないといった、細かなターゲットの属性によってアプローチを変える必要がある場合に有用だ。
ここまでがプロセス1の、前提条件の設定としての顧客ざっくりセグメントである。阿佐見氏は「これだけではターゲットを動かす戦略を考えるのは困難なので、どんな特徴・傾向があるのか、ターゲットの解像度を上げていく必要があります」と話し、続けてプロセス2の「ターゲットの精緻化」について解説した。