アプリを軸に行うOMO・ID顧客化・行動データ収集
POCKET PARCOにおいては来店前後のデジタル接点として「PARCO ONLINE STORE」や、オウンドメディアの「PARCO Journal」を運用している。

PARCO ONLINE STOREは、ショッピングセンターPARCOに出店しているショップが販促手段として活用。実店舗の売上に計上するというルールで約8年運用が継続している。オンラインの売上が実店舗の売上になるため、ビジネスの仕組みとしてはOMOだ。PARCO Journalでは魅力的なコンテンツを提供することで、非ID顧客をID顧客へと成長させていくことが狙いだ。
アプリ内の顧客接点は上記にとどまらない。実店舗の来店中の接点、顧客の行動データ取得を狙いに「WALKING COIN & Wi-Fi CHECK IN」を実装。顧客が館内でアプリを起動し、移動後に再度起動するとその間に歩いた歩数をカウント。目標歩数に達成すると、デジタルのコインが獲得できる仕組みだ。館内を歩く距離が長い人は買い回りが多いという仮説があり、その実証に向けても活用しているという。
また「SHOP評価」機能では、実店舗での買い物の翌日にアプリにプッシュ通知が届き、星5段階で買い物体験を評価できる。意見はショップスタッフに還元することで、サービスの質向上に役立てられる。
なお、前述の通り、ONLINE PARCOにリプレース予定であり、それにともなって今年度中にコンセプトを変更する予定だと北山氏は述べる。

「これまでの『PARCOに出店しているショップが販促手段として使うオンラインストア』ではなく『ALL PARCOスタッフが事業を問わず、自分たちの提供する楽しさをお客様にお伝えするチャネル』にしていきたいと思っております。よりメディア色が強くなるイメージです」
ID顧客のデータで見えた「取扱高に寄与する顧客像」
同社ではBIツールのTableauを活用して顧客データの分析を行うことで、売上に寄与する顧客像を導き、増やすためのヒントを探っている。
「データはお客様そのものであり、データからわかってきたことを、お客様に何度も来ていただくための手法に還元していくのがCRMの根幹にあると思っています」
データを分析して改めてわかったことは何だろうか。北山氏によれば「PARCOは中長期に維持されている、長年PARCOに通っていただいているお客様に支えられている業態」という事実だ。
直近1年以内にPARCOユーザーになった新規顧客は、短期的には取扱高に寄与しない、大きな額にはならないことがわかった。一方で2回の来店があった顧客は、翌年度の来店率が跳ね上がることもわかったという。来店が年間6回を超えると、翌年度の来店率が安定して高くなることも見えてきた。
PARCOでは1月と7月に半期に1度のセールがあるほか、ここ10~20年は競合他社も含めて、3月、5月、9月、11月にも顧客招待企画をやるのが定番だ。来店を促す企画を年に6回は実施していることになる。経験則で6回としていた企画数が、データによって間違っていないことが証明されているのだ。
「これを当たり前と捉えるか、『だったらこんなデータはある?』『こんな企画はどうか?』と捉えるか。データを可視化しただけで終わらず、感覚的な部分を定量化することで改善へ進めるかどうかで、成長に違いがあると思います」
データ分析によって、ほかにも発見はあった。たとえば、複数のショップで購買行動をしているユーザーは、単店・単ブランドを使っているユーザーより、翌年度来る率が高まっていることがわかったのだ。
「どうすれば年間6回来ていただけるのか、どうすれば現在ご利用しているショップ以外でも来店、体験していただけるのか。自分たちが考えるべき施策の糸口を見つけることができました」
課題は具体的であればあるほど解決の糸口が見つけやすく、課題が明確であるほど社内のアイデア出しが活発化することは想像に難くない。ダッシュボードを通じた分析と共有によって、全社員がデータを基に議論することができる「データの民主化」が起きたのだ。今まで自社の顧客データを持てなかった同社にとって、革命に近い出来事だろう。