視点3 HowよりもWhyを大切にする
サービスやプロダクトでわかりやすい独自性を発揮することが、難しい場合も多いかもしれません。実際にマーケティング業界において、既にHowの領域はコモディティ化しています。広告、動画、SNS、MA、CDPなど、どのカテゴリーも多少の機能の違いはあっても、よほどの独自性がない限り、どのサービスを選んでも機能レベルで実現できることに大きな差はありません。裏を返すと、ほとんどの機能的なニーズは満たされている状態と言ってもよいかもしれません。
にもかかわらず、自社の機能や性能を前面に押し出したプレゼンテーションを聴く機会も少なくないように感じます。たとえば、CPAやLTVなどのパフォーマンスがこれくらい改善した、というようなツールのプレゼンは複数の企業から聴くこともありますが、細かい違いはあったとしても、大きな違いを記憶に残すことは難しいでしょう。
こういった場合、聴き手はどこで違いを認識するのでしょうか? クライアントの多くは、既に様々なパートナー企業とのプロジェクト経験があります。そして、採用後に提案どおりにプロジェクトが円滑に進むことはなく、ゴールまでの道のりには紆余曲折があることも知っています。
機能が一定の水準を満たしていることは最低限必要な条件、POP(PointofParity)です。その上でクライアントは、事業の目的を達成する上で信頼できるパートナーであるかどうか、企業と提案者のパーソナリティを重視しています。
提案者である企業が、世の中、生活者、クライアントのどのような問題を解決するために存在しているのか、どのような熱量を持って活動しているのか、Whyを語ることはとても大切です。熱量のあるWhyは共感を生み、売り手と買い手の垣根を越えた上位の目的になるからです。これを語るには経営者自らプレゼンすることも望ましいですが、担当者であっても、なぜ、その企業の理念に共感して働いているのか、事業を通じて自分はどのような問題を解決したいのか、Whyは必ずあるはずです。
ほとんどのHowはコモディティ化していることを前提に、自らのWhyを棚卸しして、しっかり語ることで、理念やパーソナリティをPOD(Point of Difference)にすることができるのです。
プレゼンは、長期的な仲間づくりのきっかけ
以上、プレゼンテーションにあたってBICPが意識的に取り入れている3つの視点をご紹介しました。ターゲットをあえて1人に絞ることで深く理解し、他社との競争に乗らない独自の価値軸を提案する。そしてWhyを語り、売り手と買い手の垣根を越えた共通の目的をつくる、です。
他にもプレゼンテーションのノウハウには、「1スライド1メッセージ」「色数を限定する」「文字の可視性を担保する」「文章は読まない」といったテクニック的なものもありますが、それよりも今回ご紹介した3つの視点はプレゼンの成否に大きな影響を与えます。
振り返ってみると、私にとって、プレゼンテーションとは深く長くつながり続ける仕事仲間との出会いの場のようにも感じられます。実際に、私が現在お仕事をさせていただいている方々は、直近のプレゼンテーションではなく、3年前、5年前のプレゼンテーションをきっかけに互いを認識し、共感が生まれ、その後もご縁が続く中で、実務的に必要になったタイミングでお声がけをいただいているパターンがほとんどです。そして、お声がけいただくタイミングでは前述のとおり、既に競争が排除されています。また、一度プロジェクトが終了したクライアントでもご縁が切れることはなく、常に互いが抱えている問題やありたい姿について会話が続いています。
そう考えると、プレゼンテーションの成果を短期のリードや契約だけで測ることもナンセンスに感じます。多くのマーケティングの現場でLTVが重視され始めているように、プレゼンテーションの成果も短期的なものだけではなく、長期的な指標で測ってもよいのかもしれません。