Google、Metaとは違うビジネスモデルを目指す
安成:違うビジネスモデル、とは具体的にはどういった内容でしょうか?
有園:これは入社前から感じていたことですが、そもそもビジネスの裏側にある思想が違うんですね。経済学者でマイクロソフトの主席研究員であるグレン・ワイルが、以前から「個人データを集めてビジネスをするなら対価を返すべき」という考えを発信しており、入社後にチャットでグレン・ワイルにも社内で質問したのですが、彼の思想の影響もあって、「Microsoft Rewards」というポイント制度が今年の夏から始まっています。ユーザー登録が必要になりますが、ブラウザのMicrosoft Edgeを使ったり、検索エンジンBingで検索すると、ポイントが貯まるようになっています。
既に、Amazonと連携してAmazonギフト券への交換が可能ですし、その他の日本の大手共通ポイント事業者や家電量販店などとのポイント連携も、実際に着手し始めました。
安成:その推進も有園さんのミッションなんですか?
有園:ミッションというか、これは私自身も進めるべきだと思って、面接時に「自分が入るなら他社との連携を含めてもっとやりますよ」と提案資料を作って軽くプレゼンしましたね。そもそも、最初はコンサルタントとして契約してもらえるといいなと考えていたので、Microsoftのビジネス拡大に寄与するような提案資料を少しだけ用意していたのです。
Microsoft Rewardsは、公正なデータエコノミーの形を先進的に模索する米国カリフォルニア州で、以前から提案されている「データ配当金」に近いです。共通するのは、生活者の個人データを使うなら、それで得られた利益を還元すべきだという思想です。
もちろん、ポイント自体を魅力に感じてBingやMicrosoft Edgeを使っていただくのもいいのですが、どちらかというと、ユーザーに還元していく思想に共感してくれる方から広げていく考えがあります。

勝ち筋は膨大なファーストパーティ・データの活用
安成:なるほど。他に、他のプラットフォーマーとの違いをどのように捉えられていますか?
有園:実は、マイクロソフトは他社に比べて圧倒的に多くファーストパーティ・データを保有しています。まず、Windowsのマシンを使っている人はだいたいサブスクリプションの「Microsoft 365」を使っている人が多いので、その行動履歴は取得できます。また、Macユーザーもほとんどの人が「Microsoft 365」を使っています。ビジネスパーソンならMacユーザーであっても、パワーポイントやエクセルを使ったことがない人って、少ないですよね。そして、iPhoneでもAndroidでも「Microsoft 365」を使っている人は多いので、実はファーストパーティ・データの質と量は、すごいんですよ。
それらを累計すると、マイクロソフトは相当な行動履歴のデータ量を持つ唯一無二の企業といえます。また、LinkedInがマイクロソフト傘下なので、そこから得られるファーストパーティ・データも貴重ですし、Netflixの広告配信も担っているので、ブランディング目的からコンバージョン目的にまで寄与する多種多様なデータを使って広告配信に活用できます。
アメリカやヨーロッパでMicrosoft広告事業の拡大が続いているのは、ファーストパーティ・データの質と量のレベルの高さに、ユーザーも広告主も気づき始めたからだと聞きました。つまり、たとえば、ファーストパーティ・データに基づいて検索結果をパーソナライズできるので、自分にフィットしたものが表示されやすくなるということですね。その事実を理解した広告主も積極的に広告配信するようになってきた。なので、非常によい好循環が生まれている状況です。

安成:確かに、LinkedInにもファーストパーティ・データが膨大にありますね。
有園:そうなんです。このようなマイクロソフトの有するデータと、ネットをクローリングして集めてきたサードパーティ・データとは、根本的に違います。「200億のクロススクリーンデータの信号が刻々とリフレッシュされる」というフレーズを資料で使っていますが、世界人口が70~80億人と言われることを考慮し、たとえば一人当たり3~5台などのデバイスがあるとしたときに、様々な推計が可能ですが、膨大なユーザーがいることがわかると思います。
その膨大なファーストパーティ・データの活用と、Microsoft Rewardsの推進の両輪で、BingとEdgeの利用者を着実に伸ばしていきます。補足すると、GDPRや個人情報保護法でサードパーティ・クッキーとサードパーティ・データの利用が厳しくなっていく時代背景は、Microsoft広告事業にとっては、追い風なんですね。
