体験価値を最大化させる方法は?パネリストが実例を紹介
藤井:体験価値の最大化について、お二人はどのように捉えられていますか?
久野:抽象的な言い方をすると、そのサービスやプロダクトが提供されたときに気持ちが上がる体験をいかに増幅していくか、だと思っています。
私が博報堂にいた時「ピノフォンデュカフェ」という企画に携わりまして、これは「ピノ」のアイスとチョコソースが分離された状態で、ソースを付けトッピングでデコるとかわいいピノができるというものでした。イベントでユーザーが写真を撮ったり食べたりできるように出しましたが、まさに嬉しい気持ちを増幅させるという、体験価値の最大化だと思います。

伊藤:私としては、先入観を見直すことが前提としてあるうえで、ユーザーの方々に「自分ごと化」してもらうことだと考えています。たとえばブランドやサービスを好きになる、というのも自分ごと化の一つの形だと思いますし、企業とユーザーとの関係性を深くしていくことが体験価値の最大化につながるのではないでしょうか。
以前、大阪府の泉大津市さんと共同で高校生・大学生と一緒に避難訓練ゲームを作りました。そこでは我々がルールを全部与えるのではなく、学生さんと一緒に作るという形の取り組みにしました。それによって自分ごと化できるし、友達にもシェアしやすい。なおかつ防災意識を高めるという目的にもコミットできました。

伊藤:多くの人にとって、避難訓練・防災訓練は必要だとわかっているけど面倒だというイメージが当たり前になっていると思います。その先入観を壊して、やらされるのではなく自分ごと化して「やりたくなる」を作る形で目的も達成できる、ということがビジネスはもちろん社会課題の解決においても、体験価値の最大化における可能性を感じましたね。
体験価値の要素を言語化したフレームワークが登場!
藤井:伊藤さんが説明してくださった体験価値を最大化する設計って、方法論化されているのでしょうか?
伊藤:はい。ゲームとかエンターテインメント領域で経験や非言語のノウハウでやっていた部分を抽出し言語化した曼荼羅があります。

伊藤:この中央部分に人間が動く動機・行動特性、要するに動きたくなる要素のトリガーを置き、上部分はポジティブ心理をトリガーにしたもので、下部分がネガティブ心理を配置しています。右側は情緒・意味的な要素の強いもの、左側が進んでいく・成長する感覚を楽しむ機能的なものをマッピングし落とし込んだフレームワークになっています。
久野:これは、どういうきっかけで作られたんですか?
伊藤:体験価値を作り最大化するための、共通した画一的な方法ってあまり存在しないと思います。むしろ、まず人間理解や社会理解の部分が非常に重要です。そのために行動のトリガーなど様々な要因や要素を分解して、それを押さえたうえでどういった方法でいくか、発想の形は人や企業や組織それぞれのオリジナリティを出す部分だと考えています。
そのため、人間理解・社会理解の共有とそれを踏まえた発想の取っ掛かりがあれば、チームとしても軸がぶれることなく体験価値の創造を行えるのではないか、ということで作ったのがきっかけですね。
藤井:なるほど。これはどういうシーンで主に活用されているのですか?
伊藤:我々は実際に体験を組み立てる際、常にこのフレームワークを使いながら検討しています。チームの中で人間理解を共有し認識をそろえるという目的が軸にあり、アイデア出しや考え方のコンパスのような存在です。
このほか、他社のサービス分析にも活用しています。これに当てはめてみて、入っている要素を分解・分析して、人を動かす力度と尺度、行動変容力といったもののスコアが出せます。それを用いて他のサービスを参考にしながら、さらに別の要素を加えたらどうか、といった形で着想のアイデアを出すなどもしています。さらに、不足部分や補強ポイントの洗い出しにも活用できます。もちろんこのフレームワークだけでなく、データやユーザーインタビューもセットで使うことが必要です。
藤井:競合のサービスをスコアリングし、それを超えるものを作る指標にするうえで、これはかなり便利なメソッドですね。