PMの領域まで手を伸ばすことが、マーケターの価値向上につながる
──そういった「売り方だけでは売れない時代」へ変化してきた中で、今マーケターは組織の中でどんな役割を果たしていけばよいのか。石井さんのお考えをお聞かせいただけますか。
マーケターとしての価値を上げたいなら、プロダクトマネジメントの領域までできるようになることです。一般的にマーケターと言われて真っ先にイメージするのは、広告運用やLPといった売り方のファインチューンができる人だと思います。しかし広告運用がものすごくうまくてもCMOにはなれません。その限界を超えていくには商品開発、プロダクトマネジメントの領域に食い込んでいく必要がある。これからのビジネスは売り方だけでは完結しないので、マーケティング×プロダクトマネジメントの領域まで手を伸ばすことが、マーケターの価値につながっていくと思います。

──マーケターがプロダクトマネジメントの領域へと踏み出すために、必要な要素はなんでしょうか?
マーケターに限らずプロダクトマネジメントで重要なのは「顧客からスタートする」ことです。顧客が何を求めているのかを明らかにした上で、自社が提供できて競合が提供できないポイントを見つける。そのポイントに刺さる商品を作る。これはマーケターやプロダクトマネージャーがいなくても、事業会社であれば誰かがやっていることだと思います。
これをマーケターがやるからには、「どういうふうに売るか」から逆算してプロダクトを磨くことが大事。つまり「こういうハッシュタグで拡散されたい」といった、売り方を想定してプロダクトを開発することが肝だと思います。
一方でマーケターのオーナーシップも重要だと考えています。というのも、すべてを客観的なデータをもとに判断するのは、現実的に難しいところ。プロダクトも広告も、実施するには「こっちのほうがいいと思う」という個人の嗜好が入ってしまうものです。多くの人はその判断を怖がってしまいがち。実は、一見エゴともとれるマーケターの価値観や趣味嗜好をはっきり出していくことが、プロダクトマネジメントやマーケティングを前進させると考えています。
──「売り方だけでは売れない時代」になったことで、MDで行っているマーケティング支援にも変化はありましたか?
「広告的なアプローチ」から「広報的なアプローチ」へと変化してきました。今の消費者は広告では買う気にはならないけれど、信頼している人から勧められると買いたくなる傾向があると思います。なので、いかにしてポジティブな話題を作るかがヒットの秘訣。広告枠もあくまでコンテンツだと考えて、消費者の間でどんな話題を作るのか設計する、つまりPRのような考え方のアプローチが増えています。
たとえばコミュニティを運営しているスノーピークや、エクストリームスポーツというコンテンツに投資しているレッドブルなどはよい例だと思います。
これらがおそらく未来の広告の形です。広告は、あくまで広告枠を使ったコンテンツ生成になっていくでしょう。