PMFしていない商品を営業・プロモーションで伸ばすのは至難の業
PMFしておらず売上が苦戦している状態で、マーケターや経営者がやりがちなのが、営業・プロモーション活動での問題解決を試みることだ。しかし、栗原氏が約150社を支援してきた経験によると、PMFしていない状態でいくらコンテンツマーケティングの強化やサイト改善、SFAなどのセールステックの活用に力を入れたとしても、売上を伸ばすのは難しいという。
「もし自分の担当する製品がPMFをしていないと思う場合は、プロモーション活動や営業活動を見直す前にPMFから見直してほしい」と栗原氏。当たり前のように聞こえるかもしれないが、実際には多くの企業がPMFに苦戦している。その表れとして、スタートアップの撤退要因の第1位が「市場が存在しなかった」、つまりPMFの不足だという調査データがあるという。
「皆さん『PMFが大事』『お客さんのニーズに合うものを作るのが大事』という意見に反論はないと思います。しかし実際には予算や組織など、各企業の状況によって、顧客のニーズにしっかりフィットする商品を作ることがおざなりになりがちなのです」(栗原氏)
PMFへの至り方(1)プロダクトを変える
続いて栗原氏は、具体的なPMFへの到達の仕方を説明する。
新規プロダクトをローンチする場合は、「フィットジャーニー」と呼ばれるフレームワークでプロセスを踏んでいけばよいと栗原氏。いわゆるリーンスタートアップの開発手法で、顧客の課題をインタビューで聞き出し、プロトタイプなどで製品のコンセプトを説明して徐々にプロダクト化していくやり方だ。しかし、多くのマーケターはローンチ後の事業を担当していることが多い。そこで今回はローンチ後の事業におけるPMFの至り方に焦点を当てる。
まず、PMF=プロダクトとマーケットのフィットなので、変数としてはプロダクトとマーケットの二つがある。「プロダクトを変えるやり方が4つ、マーケットを変えるやり方が3つある」と栗原氏(図表3)。

それぞれ事例を交えて説明する。
プロダクトを変える1つ目の切り口は「製品を変える」。たとえば、顧客のニーズに合わせて製品の機能を追加したり、商材自体を増やしたりすることでPMFを達成するやり方だ。
この成功事例として栗原氏は、マーケティングや広告効果測定のツールなどを提供するXICAの例を挙げる。同社がPMF以前に抱えていたのは、顧客がツールを使いこなせずに解約されてしまうという課題。そこで顧客にしっかり伴走するために、ハイタッチなサポートができる仕組みを整えたという。
このように、プロダクトを変えるといっても、人的なサポートをサービスに組み込むやり方もある。また、一つの商材だけでは解決できない顧客のニーズがある場合、クロスセル商材を展開しサービス群全体でPMFを達成するのも手だ。
2つ目の切り口は「メッセージを変える」方法だ。この方法は製品の機能自体を変えるのが難しいマーケターでも取り組みやすい。栗原氏は、成功事例として採用管理システムのHERPの取り組みを紹介。HERPは、応募者が採用プロセスのどの段階にいるか管理できるシステムを提供しているが、プロモーションコストも高く営業も苦労していたという。そこで、「スクラム採用」というコンセプトを掲げ「採用はみんなでやったほうがいい、それに最適な採用管理システム」といったメッセージにした結果、一気にマーケットに受け入れられたのだ。入り口となるメッセージを変えることで、PMFに近づいた例だ。
3つ目の切り口は「価格を変える」こと。栗原氏は「マーケターがどこまで価格をいじれるかは企業によって異なるが」と前置きしたうえで、マーケティングDXサービスを提供するWACULの例を紹介。同社が「AIアナリスト」というWebサイト分析ツールをリリースした当時「初回は無料で分析し、それ以降は1回の解析につき3万円」という料金体系だった。しかし2回目以降の利用が進まず半年で価格体系を変更。月額制に変えたことで、それまでに無料登録した企業に営業をかけると、手ごたえがあったという。
最後に紹介した4つ目の切り口は「流通経路を変える」というものだ。栗原氏は、契約書の電子締結サービスを提供するクラウドサインの事例を取り上げた。同社は銀行や地方自治体の市場にクラウドサインを導入していくため、SMBCクラウドサイン株式会社という合弁会社を設立した。「自社だけでも銀行や地方自治体の市場へある程度は参入できたはず」と栗原氏。しかしSMBCと連携することで銀行からも営業をしてもらえるようにした。「流通する経路を変える」ことでプロダクトの信頼度を高め、PMFを達成している事例だ。