先駆者が語るブランドとそれ以外の違い
今回紹介する書籍は『ザ・ブランド・マーケティング「なぜみんなあのブランドが好きなのか」をロジカルする』。著者はスターバックスとナイキのブランドを作り上げ、現在はフリーでブランド・コンサルタントを務めるスコット・ベトベリ氏と、「ワイアード」、「メンズジャーナル」などの数多くの雑誌に寄稿経験を持つスティーヴン・フェニケル氏です。
ベトベリ氏は1987年から1994年まで、ナイキで広告活動の責任者を務め、「Just do it」のコピーで知られる広告キャンペーンなどを指揮。その後1995年からスターバックスの本社でマーケティング担当副社長として店舗数を3倍に増やし、海外1号店の進出も果たしました。その後退社して現在はフリーのブランドコンサルティングとして活動されています。
本書ではそんなベドベリ氏が、自身の経験を基に現在世界的な有名企業がブランドとなっていった経緯を紐解きながら、ブランド開発の理論を提示しています。
かねてから、ブランドの強化は企業の規模や立場を問わず求められてきました。しかし、ブランド、ブランディングの定義は様々。理解が難しいと感じる方も少なくないでしょう。
ブランディングがうまくいかない場合は、たとえ商品が革新的でもただの実用品になってしまうとベトベリ氏は説明します。
第一人者であるベトベリ氏は、ブランドになれなかった実用品とブランドの商品の間にどのような違いがあると考えているのでしょうか。
商品はブランドコンセプトを伝えるツール 消費者の共感を誘うことが重要
本書ではベトベリ氏が考えるブランドの定義を下記のように説明しています。
「ブランドは、商品やサービスそのものよりも、消費者の経験を足し上げた総和によって定義される」(P.55)
商品やサービスを体験する主人公は企業ではなく、あくまでも消費者。ブランドが持つコンセプトについて商品を通して消費者に体験してもらい、共感してもらうことで、それがたとえ実用品でもブランドの商品になることができるとベトベリ氏は述べています。
では、コンセプトが伝わる体験とはどのようなものなのでしょうか?
実用品の店をブランドに変えた「コンセプト」と「体験」
前述の通り、本書では概念の説明に終わらず、事例から具体的な手段まで説明しています。実用品の代表格とも言える「コーヒー」をブランドの商品に変化させたスターバックスでの取り組みはとてもわかりやすい事例です。
ベトベリ氏がスターバックスのブランド開発において目指したコンセプトは「美味しいコーヒーを良い雰囲気の明るい清潔な店で飲める場所」でした。具体的な施策として、広告には予算をかけず、このコンセプトに沿って店舗や商品パッケージのデザインを刷新。さらに独自のコンピレーションCDや書籍、タペストリーを売り出しました。
このように、消費者にとって様々な角度からコンセプト通りの体験を生み、その総和としてスターバックスを作り上げていったと語られています。
これにより、スターバックスは一つのブランドとして認識され、たとえ一般的な「実用品」としてのコーヒーより価格がたとえ高くても支持されるようになったと説明されているのです。
本書ではスターバックスの例だけでなく、ナイキが行って今では多くの企業でも実践される「サブカテゴリの展開」など、ブランドの確立を支える多くの手法を紹介。有名なブランドの成功事例のほか、失敗した事例も使い、ブランディングの考え方を具体的に説明しているため、多くの方にとってブランディングの理論や実際の施策がイメージしやすくなっています。
企業にとって切っても切り離せないブランド構築。競合との差別化に悩んでいる方、独自の価値を伝える体験づくりに取り組みたい方はぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。