「エンジニアはいかに顧客ニーズを実現しているか」を知る
続いて新村氏は、エンジニアとマーケターの連携の重要性を指摘した。エンジニアは顧客のニーズを捉え、それを製品の機能に落とし込んで価値を作り込んでいく。マーケターは、製品の機能や特性を価値として顧客に伝えることで購入してもらう。実は「両者は道路の上り下りのような関係で、似たようなことをやっている」という(図表2)。

エンジニアとマーケターがお互いの考え方を理解することで、マーケターはより効果的なメッセージを出せるようになり、エンジニアも顧客のビジネスの成長につながる製品にできるはずだ。
そこで新村氏は、エンジニアがどう顧客ニーズを捉えて製品の機能に落とし込んでいるのか、その考え方を紹介した。今回は特に「アーキテクト」と呼ばれるシステム全体の設計を担当するエンジニアの視点を解説した。アーキテクトは、以下の4つの要素を考慮しているという。
- ステイクホルダー(利害関係者)
- コンサーン(関心事)
- ビューポイント/パースペクティブ(視点)
- ビュー(表現)
エンジニアリング特有の表現であるビューポイント/パースペクティブは、それぞれ以下のように理解できる。「ビューポイント」はいわゆる機能要件と呼ばれるもので、製品やサービスが提供する機能のこと。「パースペクティブ」は非機能要件と呼ばれる、いわゆる性能のことで、パフォーマンスやセキュリティ、ユーザビリティなどがそれにあたる。
エンジニアは、顧客をはじめとするステイクホルダーから引き出した複雑なコンサーンを、ビューポイント/パースペクティブを使って細かく分解し整理することで、単純化し「ビュー」の形にしていく。この考え方を「関心の分離」と呼ぶ(図表3)。

「これはシステム開発でよく使う用語だが実はあらゆる状況で使うことができる考え方なので、ぜひ知っていただきたい」と新村氏。
このようにエンジニアは、顧客の関心を分解して機能まで落とし込むことで、製品を設計している。バリュープロポジションデザインと進む方向が違うだけで、機能と顧客価値の結び付けをしているわけだ。このエンジニア視点をマーケターも把握しておくことが重要だ。
「バリープロポジションデザインと製品設計が乖離すると、マーケティングメッセージの説得力が落ちてしまう。エンジニアがどんな考え方で設計をしてきたのか、マーケターはコミュニケーションをとりながら理解する必要があります」
エンジニアにフィードバックすべき情報とは
では、マーケターからエンジニアにどんな情報を渡せば、バリュープロポジションデザインと乖離のないプロダクト設計ができるのか。
エンジニアは「サポートデスク」や「ユーザーヒアリング」などを通して、既存のユーザーが困っていることや改善してほしいこと、満足度などの情報を集めている。一方で、ユーザーにならなかった人や、利用をやめた人の声はなかなか集めづらい。そこで、解約時に理由を尋ねるアンケートや、ヒアリングなどを通じて、マーケターがその情報を集めてエンジニアに共有できると良い。ユーザーにならなかった理由がわかることで、トライアルからのコンバージョンを増やすための製品作りなどに活かすことができる。
そのとき、「フィードバックが活かされているかどうかもしっかり評価することが重要」だと新村氏。顧客の満足度や継続率をウォッチして評価する必要があるという。
その指標としては、トライアルコンバージョンレートやチャーンレート、NPSを活用すると良い。特にNPSは、ユーザーがどれくらいこの製品を気に入っているかを測るものなので、観測することで実際にユーザーが離れる前に対策を打つことができる。チャーンレートに影響が出る前に、NPSを見ながら離脱を防ぐことが大事だとした。