※本記事は、2023年3月25日刊行の『MarkeZine』(雑誌)87号に掲載したものです。
「顧客が持つ課題」と「ITが解決する課題」のギャップを知る
本セミナーのゴールは「顧客が持つ課題とITが解決する課題のギャップを理解する」「エンジニアと協力して商品力を高める方法を理解する」の2つだ。新村氏はまず前者について解説した。昨今のビジネス環境の変化により、マーケターの役割は変化している。サブスクリプションビジネスが登場したことで、セールスが顧客にモノを売っておしまいではなくなった。
「従来はセールスを中心にビジネスを伸ばしてきたが、これからはプロダクトに成長の要因を組み込んで、ビジネスを成長させていく必要がある」と新村氏は指摘する。つまり「SLG(セールスリードグロース)」から「PLG(プロダクトリードグロース)」の時代へと変化しているのだ。
こうした変化に応じて、マーケティングの振る舞いも変わる必要がある。新村氏は、「顧客が持つ課題」と「IT(製品)が解決する課題」のギャップを埋めることが、これからのマーケターの役割の一つだとした。
「マーケティングサイドは『この製品さえあれば問題が解決しますよ』というメッセージを出しがちで、顧客も『この製品があれば効果が出るんだ』と飛びついてしまう。しかし、製品を導入すれば即座に生産性や売上が上がるわけではない。製品の適切な活用と、使う人自身の変化がなければビジネスは変化しない」と新村氏は指摘する。このプロセスがなければビジネスの価値につながらず、製品の効果が得られないのだ。こうした「顧客の課題」と「ITで解決できる課題」のギャップを埋め、製品を顧客のビジネスの価値までつないでいくための適切な道筋を、マーケターがつける必要があるわけだ。
「バリュープロポジションデザイン」で道筋をつける
では、その道筋はどのように描いたら良いのか。新村氏は、そこで使えるフレームワークとしてバリュープロポジションデザインを紹介した。図表1の丸い部分は「顧客プロファイル」で、顧客のニーズを定義する。一方左の四角は「バリューマップ」だ。顧客ニーズに対し、製品の機能や性能がどのように作用するのかを定義する。この両者を考察することで、製品をどう活用してもらえば顧客の根本的ニーズに応えられるのか分析するフレームワークだ。
新村氏はこのフレームワークをIT業界向けにアレンジして活用法を解説した。
顧客プロファイルの3つのマスには、「顧客の仕事」「ゲイン」「ペイン」を入れる。顧客の仕事は顧客が成し遂げたい根本的なニーズを指す。ゲインは顧客の成し遂げたいことや受けたい恩恵などのポジティブな欲求で、ペインは避けたいリスクなどのネガティブな課題だ。課題を思いつくままに入れていくとロジカルではないので、イシューツリーで課題を細分化すると良い。たとえば売上を改善したいという課題があった場合、顧客数を増やす、顧客の平均単価を増やすという要因に分解できる。そうして導き出した複数の要因のうち根本的な課題解決につながりそうなものをプロファイルに入れていく。
続いて左側のバリューマップには、「製品の機能や特徴」「ゲインクリエーター(どのように顧客のゲインを叶えるか)」「ペインリムーバー(どのように顧客のペインを解決するか)」を入れる。
このバリューマップと顧客プロファイルを結びつけることで、製品がどのように顧客の課題を解決して最終的なビジネスの価値を実現していくのか、シナリオが見えてくるわけだ。
新村氏は「製品そのものを指してソリューションと言うことがあるが、実際にITが解決できる課題の幅は狭く、ビジネスの変化に直結するわけではない」と強調。人が介在してビジネスの変化を起こすところまでを含めて、はじめてソリューションと言えるのだ。