「WPPアカデミー」で深める知識とつながり
──「WPPアカデミー」という社内講座をスタートされたそうですが、この動きも、成長を止めることなく、専門外も含めて物事を幅広く考えて提案できる人材を育成するために?
そうですね。全社員の知識レベルを向上させなければいけないという、ある種の危機感を各社のCEOが同等に持っていました。そのための取り組みの第一歩として、入社1〜5年目のジュニアレベルの社員を対象に、2023年1月から始めたのが「WPPアカデミー」です。
WPPのベテラン社員から選出したプロフェッショナルたちを講師陣に、月1回の開催で全12回を予定しています。第1回がメディアプランニング、第2回がデータとテクノロジーをテーマに実施されたのですが、どちらも非常に熱いセッションになり、出席者からも好評です。
アカデミーの特徴の一つが対面形式であることです。オンラインのトレーニングが多い時代ですが、今回は50人1クラスが集まってリアルで実施しています。会社の垣根を超えたネットワークの醸成も目的の一つなので、同じクラスに会社も職種も異なる様々な人材を集めることで、それを実現しようという意図があります。
──講座を内製する場合、苦労される点もあるかと思います。カリキュラムを組む際に気を付けた点をうかがえますか。
1クラスに多様な職種が集まりつつも、全員が意味を感じられるリアルな内容を心がけました。日々の業務で直面するテーマや課題を設定しています。
たとえば、先日の講座では高級レトルトシチューの課題が出されました。「高級レトルトシチューをローンチする場合、ターゲットやタッチポイントは何で、どういう語りかけをするべきか」について、チームで議論します。実際にそのようなプロダクトを担当する者はいないものの、グレイワールドワイド(以下、グレイ)であれば実際に担当しているヘアケア製品のコミュニケーションを思い浮かべるなど、実務と関連して考えやすいわけです。
──参加者の反応はいかがでしょう?
自分事化しやすいテーマである上に、WPPグループの他社のメンバーとの出会いがあるため好評です。アカデミーで築いた関係が、将来の自分の仕事に役立つと気が付いているんですね。
WPPアカデミーが始まる前も、一生懸命本を読んだり先輩の話を聞いたりと、自分で知識を付けようというメンバーが多かったのですが、WPPアカデミーは受講者応募の段階から募集人数をはるかに上回る応募が来て、仕方なく数を絞ったりもしました。
──ジュニアレベル以外の社員も含めた、全体のレベルの底上げはどうされていますか? 自分から学ぶ姿勢のある社員が多い中で、マネジメントレイヤーがスキルアップを導く必要もあると思いますが。
WPPグローバル全体で、テーマごとに豊富なトレーニングプログラムが用意されており、自主的にどんどん受講できるようになっています。また、WPPグループだけでなくカンパニーごとのトレーニングもあります。
たとえばグレイなら月に1回最新テクノロジーなどに関する講座が開催されます。職種ごとに目指すべきスキルセットをまとめた一覧も社員に公開されているので、自主的に目標を設定できます。また、人事部からも定期的にアップデートの通知が来て、レベルや職種ごとに「これを営業担当は絶対受けるべき」「ミッドレベルはこれを受けるべき」といった指標も与えられています。さらに人事担当は、社員がその指標をクリアしているか確認をしています。加えて、WPPグループの人材は好奇心旺盛で向上心が高いので、やらされている感はなく取り組んでいる印象です。
──ボーダレスにネットワークを活用してスキルアップし、クライアントに最善の提案をするという人材育成の目標において、既に成果が出ている事例があれば教えてください。
ある大手クライアントのコミュニケーションを考える横断組織が発足しており、それは象徴的な例です。クライアントにとって最適な人材を各社から集めて100人規模の組織を立ち上げました。その組織内で、ブランドに合わせて「Aという商品はこの会社のこのCD(クリエイティブ・ディレクター)と、この会社のAD(アート・ディレクター)が向いている」と柔軟にチーム編成をしています。
1社だけでは触れることのなかった新しいプロセスや考え方と交わるので、メンバーは刺激を感じているようです。各社が強いカルチャーを持っているので、それらが融合して化学反応が生じ、結果的にクライアントからの良い評判へもつながっています。