本質的な変革を遂げる過程には「AIに負ける」ことも必要
――今後、マーケティング業界で価値を発揮できるのはどのような人材・組織だと思われますか?
山本:近年、シンギュラリティという言葉も出てきていますが、それに近いプチ・シンギュラリティが現実でも起きているように思います。たとえば、プログラミングでつまずいたときに「ここがうまくいかないんだけどどうすれば良い?」とAIに聞けば解決する、みたいなレベルのことも普通になってきているんです。この結果何が起きるかというと、プロダクト開発の担い手がエンジニアではなく、クリエイター側にシフトしてくると予想されます。つまり、これから必要になるのは、どこをAIに代替させて、どんなビジネスを作っていくかという全体を描ける人材です。

ただ、これらは一人ではなく、組織内で連携して行うべきものです。このとき、連携しようにも誰が何に詳しいのかを都度調べるのは手間ですよね。ですから、AIに「こんなことをしたいんだけど」と話しかけたら、社内のデータベースから要件に合っている人がマッチングされるというように、AIを用いて人と人とのコラボレーションを促すところまでがこれからは求められてくると思います。
――最後に、次の10年を見据えて組織強化の展望をお聞かせください。
山本:正直にお話しすると、情報を扱うエージェンシーはAIに負けてしまう可能性もあると思っています。クリエイティブの領域では「この人が作ったことに意味がある」と言えますが、これは情報に関しては通用しません。ですから、AIの登場による時代の局面で、自分たちの仕事の棲み分けを最初に考えなければならなくなるのはエージェンシーでしょう。ということは、そこが強みにもなり得るはずです。AIに負けるところは潔く負けて、AIと協業していく過程でさらに強くなる。そこで得た武器を活かして、クライアント企業に価値を提供していく。これが、これから電通デジタルが向き合うべきところだと思います。
杉浦:データアーティストとの合併には、組織や業務にAIを標準装備することで劇的に生産性を上げていきたいという狙いもあります。日本企業の生産性の低さはもとより、広告業界は未だ過重労働のイメージがあるのも事実です。この状況は変えなければいけないですし、まさに今が変えられるタイミングだと感じています。今、組織の中で蓄積されているノウハウや知見は早々にシステム化して、より多くの人がクリエイティブな仕事や付加価値を生む仕事に集中できる環境を作っていきたいです。
そうして多くの仕事が省力化されたとき、最終的にはクライアント企業や生活者、ビジネス、業種業界に対する深い理解やビジネスセンスが問われてきます。高い専門性を有する各領域の人材、外国籍の方も含めたグローバルな人材など新しい仲間をさらに迎え入れて、多様性も高めていく考えです。専門領域や国籍の境目はどんどんなくなり、10年も経てば我々の組織の様相もかなり様変わりしているのではないでしょうか。電通グループのアセットと電通デジタルとしての立ち位置、データアーティストの技術力を結集させ、それを価値に変換する――これが、10年先とは言わず、向こう数年の我々の勝負どころだと思っています。