新たな価値を創造してきたマーケター
中澤:本セッションのモデレーターを務める、Reproの中澤です。デジタルマーケティングに20年以上従事してきました。ノウハウ発信の一環として、Web漫画の原案・監修なども行っています。
宮木:私は2021年9月にコニカミノルタに入社後、自社製品のマーケティングと並行して、デジタル印刷を活用したマーケティング支援活動を実践する組織を一から立ち上げてまいりました。私の組織は、コニカミノルタの既存事業である印刷機の製造販売からのトランスフォームをミッションに掲げ、デジタル印刷を活用して社会のコミュニケーションを変革するチャレンジをしています。
その一環として開発している弊社の「AccurioDX」は、デジタル印刷の活用により紙媒体でも1to1マーケティングを実現する共創プラットフォームです。ここでは、DXを「DoroXsai(泥臭い)」活動であると定義し、まずは人力でも良いのでトランスフォームの効果を体験していただくことを重視しています。これまで100社以上と共創しながら、印刷物をパーソナライズすることでマーケティング効果を向上させた事例を短期間で多数創出してまいりました。
石川:エアークローゼットの創業1年目から参画し、現在は社長室とマーケティンググループの管轄をしています。新規事業やマーケティンググループの立ち上げを担当し、昨年はIPOも経験しました。
主な事業としてスタイリストが選ぶお洋服が届くサブスク型のファッションレンタルサービス「airCloset」を提供しています。サイズや好みを登録することで、プロのスタイリストが選んだお洋服が手元に届き、返却期限やクリーニングを気にすることなく楽しめるサービスです。
聞いても出てこない本音が引き出せた三つの場面
中澤:あらゆる商材であふれている現代において、マーケターは消費者のインサイトを引き出し、新たな価値を創造できるようにアップデートする必要があると考えています。そこで、インサイトを見つけ出すためにはどのようなスキルが必要で、そうした人材はどのように育成していくのかというテーマでお二人にお話を伺っていきます。
まずは、これまでのご経験の中で「インサイトを見つけた」と感じたエピソードをお聞かせください。
宮木:入社後、私は印刷機どころか印刷業界のこともわからない状態だったため、サプライチェーン全体のプレーヤーに直接会いに行く活動をしていました。そこで得た「怒られた経験」「フラれた経験」「リラックスして話す経験」が印象深く残っています。
宮木:怒られた経験をしたのは、ある広告代理店さんに我々の印刷技術の効果について聞きに行った時のことです。社長さんに「大抵課題になるのは一番工数のかかるデザインのディレクションだから、最後の工程である印刷なんてどうでもいい」と教えられました。
フラれた経験をしたのは、前述のAccurioDXの事例について講演した時です。終了後に印刷会社の社長さんがわざわざ「おもしろかったです」と言いに来てくださいました。そこで、共創のお誘いをしたところ、なんと、きっぱりと断られてしまったのです。印刷業界はロットが大きいアナログ印刷が主流で、「これから主流になるかもしれないが、今はまだデジタル印刷は手間の割にお金にならないのでやりたくない」というジレンマがあるとわかりました。
リラックスして話す経験は、様々な業種業界でマーケティング実務を担っている、コミュニケーションの起点になる方々とご一緒した、お食事の席などで得られました。驚くほど「印刷は知られていない」という気づきがあったのと同時に、腹を割って話せる、対話できる場を用意することで、「真に成し遂げたいことが何なのか? それを阻むものは何なのか?」といった市場調査などでは答えづらい生の声が聞けたと感じます。
中澤:三つのエピソードを通して見えたものはありますか。
宮木:インサイトにつながる「人の本音」を聞くことの難しさ、聞き出し方の重要さです。「本音を教えてください」では聞き出せません。本音は、怒りとともに現れたり、人が去る時に理由を類推したり、膝を突き合わせた時にお話してくれたものだったり、そうした人間臭い場面での言動や表情、しぐさなどとともに現れやすいと思います。