より正確なインサイトを導き出すための「検討フロー」
石川:私たちは個人の能力というより、チームでインサイトを見つける工夫をしています。お客様に個別インタビューをしたら、それを受けてチームでディスカッションを繰り返すといった、より多くの視点で具体と抽象を行き来することを大事にしています。
たとえば、三年前は「似合うお洋服がわからない」と言うお客様が多く、私も最初は「これがインサイトだ」と思っていました。しかしこれに対して社内で、「表面的な言葉だよね」という意見が出ました。そこで次に「ファッションに自信がないから似合うお洋服がわからない」という仮説をたてました。ですが、これをお客様に聞いても、思ったような反応は得られませんでした。
石川:その後、ディスカッションを深める中で一番腑に落ちたのが、「いつも同じお洋服になってしまう、マンネリ化する」という仮説でした。実際、それをお客様に聞いてみると「そうなんだよ」という反応が何人からも返ってきました。
中澤:まさに、お客様自身が言語化できていない課題だったということですね。フローの中にある「右脳と左脳の戦い」はどういう意味ですか。
石川:特にtoCのサービスでは、「右脳では本当はそうしたいと思っているが左脳でブレーキをかけているもの」はインサイトになりやすいと考えています。本当は様々な色のお洋服を着たいけど、翌年以降のことや着回しのことも考えて、結局去年と同じ色のものを買ってしまう。こうした左脳によるリミッターを外せるような提供価値を伝えられれば、「欲しい」と思ってもらえると思っています。
組織でローデータを確認することが重要
中澤:インサイトの発見力を組織全体のケイパビリティとするために、どのような工夫をしていますか。
宮木:まずは個々の「探索」により発見された何かをインサイトかニーズかは問わず、きちんと「共有」しやすくしています。共有時の対話から得た気づきは何らかの「試行」に結び付け、実行後は内省や振り返りといった「省察」を行います。このサイクルを定着させています。そしてこれをチーム一体で取り組める様に心理的安全性の高い環境を整えています。
チーム内の多角的なやり取りによってインサイトらしきものが見えてくるため、共有のフェーズは非常に重要です。その仮説は実際にお客様との対話の中でリアクションを見てテストする。これを繰り返しながら活動の輪を広げることで、組織の成熟にもつながっていると考えています。
中澤:ディスカッションしながら深めていく段階で、前提となる情報量があまりに違いすぎると難しい部分もあります。土台となる情報はどのように共通化されていますか。
宮木:ミーティングだけでなく、チャットのコミュニケーションの充実を意識的に取り組んでいます。また、お客様を訪問する時は誰かと必ず一緒に行くことで、共通の体験を重ねられるようにしています。
石川:私たちも同様です。ユーザーインタビューは、録画を撮ってチーム全員で見て、持っている情報は全員同じ状態からディスカッションを始めるようにしています。
中澤:よくある失敗が、集計されて仮説化までされた二次データを共有するケースです。チームで類推したいなら、断片を削ったデータをインプットすべきではないですよね。お客様の曖昧な返答や表情も重要なヒントなので、ローデータを全員が共有して初めてディスカッションが成立します。お二人ともそこを組織としてフレーム化しているのは流石だなと思いました。宮木さん、石川さん、貴重なお話をありがとうございました。