ECでパーパス、ミッションの実現するための「三つの問い」
それでは、実際のECビジネスにおいて「生活者共創型」マーケティングはどんな成果を挙げているのだろうか。具体事例を紹介するのが、奈良県にある日本酒蔵「梅乃宿酒造」のマーケティング部長、古澤幸彦氏だ。同氏は「梅乃宿酒造のチャレンジ」と題し、同社と HAKUHODO EC+がこの半年にわたって行ってきた施策を紹介した。
「当社の商品ラインアップの主力は、日本酒を使った果実リキュール“あらごし”シリーズです。これまでのメイン事業はB2Bでしたが、昨年7月からはECを始めとするB2Cへと本格的に取り組んでいます」(古澤氏)
ECサイトを大幅にリニューアルさせ、同じタイミングで移転した新しい蔵は、ワークショップにも参加できる「体験型の蔵」に生まれ変わったという。
これまで、梅乃宿酒造がB2Cビジネスを展開する上で重視してきたことは、以下の三つだ。
1.なぜECビジネスを行うのか?
2.ECにおける生活者との関係性をどうするか?
3.具体的な仕掛けをどうするか?
一つ目のECビジネスを行う理由は、コロナ禍により飲食店の売上が落ちたことも関係がある。だが、ECを今後の新しい事業の柱にするには、それだけでは十分とはいえない。そこで立ち返ることにしたのが、企業パーパスである「新しい酒文化を創造する」と、ミッションである「驚きと感動で世界中をワクワクさせる」だったと古澤氏はいう。
「従来どおりのB2Bビジネスだけでは、パーパスとミッションを十分に達成できないことがわかっていました。そこで『梅乃宿はECでパーパス、ミッションの実現を目指す』という軸をクリアにしたことで事業展開に推進力が生まれました。」(古澤氏)
二つ目の「ECにおける生活者との関係性」については、生活者にワクワクしてもらい、ともにブランドを創る「エヴァンジェリスト」になってもらうことを目指した。そのためにはECでしかできない体験を考える必要があったという。そこで、目指す方向性を示したキーワード「#ワクワクの蔵」をクリエイティブ展開している。
三つ目の「具体的な仕掛け」については、上述の二つを兼ね備えた商品開発が行われ、EC限定商品「PARLORあらごし 大人の果肉の沼『いちご』」として結実した。この商品の特徴を、古澤氏は次のように説明する。
「『大人の果肉の沼』は、ローストビーフにかけたり、かき氷にかけたりと”楽しみ方、超自由”をコンセプトにしたイチゴのリキュールです。ポイントは、生活者と商品を育てる商品設計をしていること。ネーミング、ボトルデザイン、コンセプト、テクスチャ。これらすべての掛け算により、お客さんが誰かに話したくなり、SNSで拡散したくなる。そんな行動が起きるように設計したのです」(古澤氏)
商品設計から「生活に溶け込む」ことで拡散につながる
商品開発の後にプロモーションを考えるのが従来だとしたら、「大人の果肉の沼」は商品設計から顧客の生活に溶け込むことを考えたという古澤氏。結果として「とんでもない名前のイチゴのリキュール見つけた!」とバズが発生。オーガニックで5万いいねを獲得したという。
「商品の発売後、数分で完売する状況が今も続いています。これは非常に鮮度が高い商品で製造や在庫数が限られることとも関係するのですが、お客様にはそのことさえもポジティブに拡散していただいています」(古澤氏)
顧客がワクワクする企画を単発で終わらせず、二の矢、三の矢をつがえては放つ、梅乃宿酒造。「沼」の次に展開するのは、“噛むリキュール”をコンセプトにした新商品「超あらごし ほぼみかん」だ。また、かねて「梅乃宿ファン」だという声優にアンバサダーに就任してもらうなど、あらゆる側面で顧客をワクワクさせるキャンペーンを心がけている。
「商品の飲み方をアレンジして発信したところ、SNSで拡散してもらえるようになりました。今では、お客様同士が盛り上がり、次のお客様を連れてきてくれる構造になっています」(古澤氏)
結果として、わずか半年で売上額が10倍を超えるまでになったのだという。