休眠顧客の心を再び近づけるカギとは?
サンリオでは、非財務目標として「サンリオ時間」というものを設けている。これはサンリオのキャラクターに寄り添ったり夢中になったりしている時間を示すもので、この「サンリオ時間」を増やしていくことが目標だ。Sanrio+を通じて、常時お客様とつながる”ALWAYS-ON”の環境を作っていきたいと田口氏は述べた。
ファンマーケティングで田口氏が大切にしているのが、「ユーザーの生活の文脈を理解する」ことだ。ファンの熱量は人それぞれ、その時々で変わっていく。
子供の頃は大好きだったけど、成長にともなって少し離れる。そして、”子供の頃好きだったな”と再びサンリオを思い出す――これを田口氏は、「リ・エンゲージメント」と表現。「好きだった記憶を思い出すことで心の距離が再び近づくような、きっかけづくりが大切」と述べた。マーケティングの視点で見るならば、一度休眠顧客となった後に完全に離脱することなく、また顧客に戻るという流れだ。

そのためには「エンゲージメントファースト」が重要だという。具体的には、ファンとのコミュニケーションの機会を逃さないことだ。あわせて、リアルとデジタルの両方の良さを生かしながら「サンリオらしい楽しさ」を提供することで深くつながってもらう。他のキャラクターやブランドとのコラボレーションで、接点を増やしていくことも有効だと田口氏。
また、田口氏は「ユーザーに嫌がられることはしない」ことの重要性も加えた。アプリは常に顧客の手の中にあり、距離が近いサービスだ。会社都合の「買ってほしい」「登録してほしい」「情報が欲しい」という思いをユーザー側が感じとってしまうと、エンゲージメントにはつながらない。
オンラインとリアルを連動した施策でエンゲージメントを高める
前述のような指針のもと、同社は顧客とつながり続けるために多様な施策を実施している。たとえば様々なキャラクターがデザインされた「電子スタンプ」を全店舗で導入。ユーザーを楽しませる工夫と、店舗・イベントごとのクーポン利用状況の分析を両立させている。
毎年実施している人気投票イベント「サンリオキャラクター大賞」および結果発表イベントでは、リアルとアプリが連動したスタンプラリーなどの企画を用意した。イベント参加チケットを申し込んだ会員のうち、参加したユーザーと不参加だったユーザーを比較して、顧客接点ごとの行動の違いを分析・可視化。また店頭で人気の「サンリオ当たりくじ」でもスマホ版を展開するなど、ハイブリッドな施策を推進している。
さらに2022年には抽選で会員証(=推し)キャラクターから年賀状が届くという、パーソナライズされた高エンゲージメントな施策にも挑戦した。累計の申し込みIDは約8万、応募割合は会員全体の6.5%と決して多くはないが、直近1ヵ月以内にアプリを開いた会員に限ると24%となる。

同施策のTwitter上での反響は大きく、当選者の満足度が高いことがわかった。今後もより幅広いファン層に向け、エンゲージメントを高めるアプローチを検討・挑戦していきたいと田口氏は話し、セッションを締めくくった。