体験を顧客任せで設計してはダメ ドラマの脚本のようなUXデザインづくり
今回紹介する書籍は『はじめてのUXデザイン図鑑』。著者は、Toikake Studioで代表取締役を務める萩原昂彦氏です。
萩原氏は、P&G、リクルートなどを経てIT企業で事業責任者兼UXデザイナーとして新規事業開発を経験。現在は、幅広い業界の企業に向けてUXデザインや新規事業開発の支援を行っています。グロービス大学院のMBAプログラムにおいて上位5%以内が対象の成績優秀修了者であり、GoogleハッカソンでSony賞の受賞もした人物です。
本書ではUXデザインの専門家といえる著者が、様々な業界から60のデザイン事例を挙げ、そこから体験設計を行う上で再現可能な22パターンの体験エッセンスを紹介しています。
世の中に多くの商材が存在する今、「サービスや商品の使い方を顧客任せで設計しても通用しなくなっている」と荻原氏はいいます。こうした状況ではただ商材を用意し、提供するだけでなく、ユーザー体験の設計、UXデザインが必要となりますが、その手順や全体像が見えない、理論やツールを説明されても自分の業界で活用するイメージが湧かないことが課題として挙げられます。
本書ではこの課題を解決するため、UXデザインの設計を「映画やドラマの脚本づくり」にたとえ、5ステップにわけて解説しています。荻原氏はあえて「脚本づくり」というメタファーを使うことで、UXデザインが必要な理由とデザイン時の手順を身近な言葉でわかりやすくまとめることできたと語ります。
では、脚本づくりとUXデザインをどのように当てはめているのでしょうか。
UXデザイン設計の上で必要な五つの段階
本書では、UXデザインを脚本づくりにおける下記の五つのステップに分けて説明をしています。
- 体験の主人公の解像度を上げる
- 結末を描く
- シーンを多面的に理解する
- あらすじを決める
- 登場人物と小道具を配置する(P.28)
まず1では、デザインしたい体験の想定ユーザーや顧客を「物語の主人公」として置くことで、物語(体験)において「どんな課題感を持つ人か」を深く考えることになります。
2は「物語の結末」から、主人公であるユーザーに対して体験を通して提供したい価値を考えるステップ。さらに3では、物語のシーンから主人公に体験を提供する際の場面を明確にします。
続いて4では、物語の「あらすじ」として、できごとや主人公(顧客)の行動、その時々の気持ち・思考や顧客が接する情報・人・物を時系列で並べることで、各要素のつながりが明確に。最後に5では、物語の登場人物と小道具として、体験自体や主人公の感情に影響与える人や物について考えます。
本書ではこの流れをより詳細に説明しており、脚本づくりを下敷きにすることで、UXデザインの全体像を学ぶことができます。
生活者の消費に対する罪悪感を軽減するUXデザイン
本書では、UXデザインの手順を解説しているだけでなく、そのアイデアの源となる事例を豊富に紹介しています。
たとえば、「罪悪感を減らす体験」の好例として、月額製で高級ブランドバッグがレンタルできるサービス「ラクサス」が挙げられています。
同サービスは、一般消費者だけではなく高級バッグを気軽に購入できるような富裕層からの利用者も少なくないといいます。
その理由として荻原氏が挙げるのは下記の2点です。
- バッグとお別れするときに「捨てるのは悲しい」と思うけど、「売るのは惨め」というジレンマがあるから
- 経済的にお得だからではなくエシカルなサービスだから
ラクサスはユーザーの立場に立って体験を描くことで、購入時に感じる罪悪感を軽減するUXデザインに成功し、それによって広いユーザー層を獲得しているとわかります。
「買う瞬間から処分する時までの体験をきちんと描き、その時々の主人公の立場に立って見ることで、買う瞬間の設計を進化させることができる」と萩原氏は説明しているのです。
本書では、UXデザインを脚本づくりに見立てる手法や、上記のように身近なサービスの事例から、難しく思われがちな体験設計をわかりやすく学ぶことができます。
自社商品の顧客体験をより向上させたいと考えている方、現状の体験設計に手詰まりを感じている方は、一度目を通してみてはいかがでしょうか。
本記事は中央経済社からの献本に基づいて記事作成しております