最新の研究動向における、文化とマーケティングの関係
こうした文化とマーケティングの多様な関係は、いまだに多くの研究者の注目を集めています。マーケティング分野のトップジャーナルであるJournal of Marketing誌においても新たな研究成果が報告されています。たとえばホーヘンバーグとホンブルグの研究では、国際的な販売活動を担当する営業担当者の管理方法とパフォーマンスとの関係に対し、異文化理解の指標であるホフステードの文化次元(権力格差・個人主義/集団主義・不確実性の回避・短期志向/長期志向)が与える影響について検証しています。
国の文化と消費者の価格感度について、キュブラーらの研究ではウェブアプリの価格を分析し、「男性性」と「不確実性の回避」が高い国では価格感度が高いことを示しています。一方リーらの研究からは、回答者が知覚する権力格差が大きいほど価格感度は低くなることが示されています。
また権力格差については、有名人などセレブリティの利用が広告評価におよぼすポジティブな影響を強めたり(ヴィンテリッヒらの研究)、企業よりもユーザーがデザインした製品を選ぶ傾向を弱めたりする(パハリアとスワミナサンの研究)ことが指摘されています。文化的コンテンツについては、ガオらの研究が中国におけるハリウッド映画のタイトルの中国語訳と興行収入の関係について扱っています。
このように、文化とマーケティングの関係はいまだに新しい知見が生まれ続けており、重要な研究分野といえます。『マーケティング・ジャーナル』Vol.42,No.4では、マーケティング研究における文化の問題を特集し4つの研究を紹介しています。
多文化を同時に消費する人々
1つ目の論文は、金春姫教授による「多文化時代におけるポップカルチャーと消費者行動― 包括的分析フレームワークの構築に向けて ―(PDF)」です。欧米やアジアのポップカルチャーを同時に消費する消費者に焦点を当て、日本を含む複数国におけるインタビュー調査を実施し、文化の消費がその他の消費活動におよぼす影響を考察しています。
Youtube や動画配信サービスの普及により、多様な国の文化的コンテンツ、特に音楽やドラマなどのポップカルチャーが世界中で消費されるようになりました。その結果、消費者に文化変容(acculturation)が起きている可能性を本研究では指摘しています。
文化変容とは、他国の消費文化に関する知識やスキル・行動を獲得することと定義されています。様々な国の文化をほぼ無料で消費できる環境に置かれた消費者は、自国の文化の影響(エスニック・アイデンティティ)も受けながら、外国の製品・サービスを消費しています。若い世代の外国文化消費に対する理解が深まる論文です。