視聴者を釘付けにするCMの共通点とは
──最近のテレビCMでCスコアが高いクリエイティブの特徴を教えてください。
たとえば、ある食品メーカーのテレビCMには注視される要素が数多く入っています。思わず目を向けてしまうようなクセになる音楽を流し続け、商品の重要なメッセージを伝えるセリフの直前で間を作り、引き付ける。そして、その後でセリフを繰り返しています。テレビCMの注視率は右下がりになる傾向があるのですが、注目させるポイントを作ることで離脱を防いでいます。CM自体は賑やかで一見ふざけているようにも感じるものですが、非常にテクニカルな作りになっています。
また、カメラメーカーの新商品の演出も最近の注視傾向が反映されています。様々な機能を言葉で説明せず、楽しそうに操作している様子で見せるというCMですが、この「説明しない」ことが注視を維持する要因です。不思議なことに、ナレーションであれができます・これができますと言うと、注視率が落ちていきます。説明調にならず、ユーザー目線で使ってみたいと感じる雰囲気を作ることが大切です。
商品だけでなく、企業広告も同様です。ある企業がSDGsへの貢献を全部ナレーションで説明するテレビCMから、会話で紹介するものに変えたところ注視率が大きく変化しました。会話での演出では、ある不動産会社の取り組みを有名女性タレントが友達に会話で伝えるCMが好例ですね。
また、あるアルコール飲料のテレビCMも非常によく見られていることがわかりました。こちらも間の入れ方などが上手なのですが、注目したいのは商品を飲むまでのシーン設定です。プロダクトのテレビCMはどうしても商品自体を良く映そうと考えがちです。ドリンクならシズル感をいかに出すかですね。しかし、シーン設定も重要です。たとえば、カラーバックで芸能人が美味しいと伝えるものと、居酒屋で男女が待ち合わせをして美味しい料理と一緒にお酒を飲むものだと後者のほうが注視されます。このように、共感できる舞台設定が離脱を防ぐことがわかってきています。

──説明をせずにどれだけメッセージを伝えるかが重要なのですね。
そうですね。他にもたとえば、取材を受けている体裁で特徴を伝えていくとか、オンラインミーティングの体裁で誰かと会話しているように見せるといった演出も注視率が高い傾向にあります。もちろん、会話が絶対でもありません。ナレーションで説明していてもしっかり見られるテレビCMはあります。その場合、ナレーションの秒数をぎゅっと絞ってワンポイントでナレーションが入っているケースが多いです。あるいはラジオ形式で長くストーリーを語る、伝えたいメッセージを歌にするといった方法も同様の効果が見られます。
──ちなみに、「このテレビCMのどこが良かった」というデータはどのように分析されているのですか?
テレビCM単体を分析してもわかりませんから、マクロ分析によって、たとえば食品業界でよく見られている上位10%の共通傾向を探っていきます。その傾向と自社CMがどれだけマッチしているかを考えます。視聴者を釘付けにする傾向を把握した後で他のテレビCMを見ると、客観的に違いを探ることができます。反対に1つのテレビCMだけで数字を追ってしまうと、誤った解釈をしてしまうことがあります。マクロの示唆を入れてから自社の分析をすることが多いです。