2030年に経済活動の中心となるZ世代
Twitchは、ゲーム、エンターテインメント、スポーツ、音楽など、様々なコンテンツを配信するインタラクティブなライブ配信サービスだ。常時、平均して250万人以上の人々が世界中から集まり、何百万人もの人々が共有するインタラクションによって生み出されるこの独特のエンターテインメントを中心に交流している。2022年、Twitchは世界で毎日70万人以上の新規視聴者を獲得している。
そして、Twitchコミュニティは主にZ世代とミレニアル世代で構成されており、Twitch視聴者の70%近くが18歳から34歳である。
Twitchは、この次の変化の最前線におり、それはZ世代を超え、ミレニアル世代とアルファ世代にまたがるものであり、それをTwitchは『Generation Twitch(Twitch 世代)』と呼んでいる。そして、このGeneration Twitchは、変化の激しい社会環境のなかで生まれ育ち、変化の渦中にいる。まさに「次世代の文化的転換点」の最前線に立つ世代だ。
「歴史的に見ても、購買力を持つ若い世代は、社会における大きな行動の変化を引き起こしてきました」とJan Bojko氏は語る。
日本では少子高齢化が叫ばれているが、Generation Twitchの中心を担うZ世代は現在世界に25億人存在し、所得の総合計は7兆ドルに上るといわれている。彼等が大人になる2030年にはグローバルで所得全体の27%になる33兆ドルに達すると見られており、消費の中心になることが期待されている。
その一方で、ブランドを悩ませているのがこの世代とのコミュニケーションだ。将来の消費を担う彼等に自社のブランドのファンになってもらいたくても、どのようにコミュニケーションを取って認知してもらえばいいか、どのようなアプローチならエンゲージメントを高められるのかわからない。
Generation Twitchの特徴は?
Twitchは、米国・EMEA・アジア太平洋を含む世界12ヵ国でグローバル調査を行い、Twitchの視聴者が持つ特徴や傾向を分析している。具体的には「ライブ体験」「体験の共有」「ライブ配信」「ゲーム」という4つのコミュニケーションを通じ、Generation Twitchがどのようなことを好み、どのような判断基準を持っているのかを記号論的に調査した。
この世代には、先述したように転換期の最前線を進んでいること、信頼性を重視して新しいブランドを発見することに前向きであること、そして生粋のインフルエンサーであるという特徴がある。元々、自分が好きなコトやモノに対しては積極的で情熱を注ぐ傾向があり、製品やブランドの特徴や哲学、パーパスを調べることに手間を惜しまない。そして、その知識をコミュニティ内で共有することに喜びを感じ、ブランドに対して高いロイヤリティを持つ。
調査によると、「一度つながったブランドはとても愛着を持つようになる」「ブランドとは長く付き合いたい」という視聴者は79%に上るという。
また、行動哲学や好みも上の世代とはまったく異なる。調査によると、現在と比べ次の5つのような変化が見られたという。
- Curated → Authentic(監修されたものから本物へ)
- Fixed → Fluid(固定から流動へ)
- Exclusive → Inclusive(排他からインクルーシブへ)
- Passive → Collaborative(受動から協力へ)
- Disengaged → Purposeful(関心が低いコンテンツから「目的型」へ)
「ゲームのルールが変わりました。この年齢層と関わりたいと考えているマーケターは適応する必要があります」とGemma Battenbough氏は語る。
セッションでは具体的な変化と、それに適応した先行事例も紹介された。次のページから、詳細を解説したい。
本物志向で流動性の高いイベントを楽しむZ世代
監修されたものから本物へ
まず1番目に挙がる「監修されたものから本物へ」という変化はどのようなものか。
Generation Twitchは、フェイクニュースやアルゴリズムによるエコーチェンバーにさらされている。人気インフルエンサーが見た目を簡単に“加工”し、キラキラ生活を装っていることも知っている。そうした状況から脱したいと思い、「正真正銘であること」「欠点も楽しみ、自分自身に忠実であること」を好むのがこの世代だ。
それゆえ、「加工された情報ではなく、本物の体験を共有したい」という思いが強い。リアルタイムでライブ配信を楽しめるTwitchはまさにこうしたGeneration Twitchのニーズに適合するソリューションであり、視聴者の75%が「Twitchのなかの出来事はすべて本物だと思う」と回答している。
実際、ホテルチェーンのモクシーホテルでは、人気ストリーマーを招待し、ホテルでの宿泊体験をライブ配信してもらい、視聴者に“本物の体験”を提供した。
固定から流動へ
次に「固定」から「流動」への変化だ。これまで娯楽消費されてきたコンテンツは、デジタルならデジタル、リアルならリアルと一方通行になっており、どちらか1つの世界でしか楽しめなかった。これに対しデジタルネイティブ最前線のGeneration Twitchでは、現実世界とデジタルの間をより流動的に行き来している。アンケートによると「インタラクティブなツールによってTwitchの広告はより面白くなる」と期待しているオーディエンスは72%に上るという。
コカ・コーラでは「Magic of Humanity」というキャンペーンで、オーストラリアのトップストリーマーを起用し、そのコミュニティとデジタル暗号解読ゲームを実施。全員に賞品をプレゼントした。
このようにデジタル体験のなかに自社ブランドを組み込むことで、若い世代のブランドエンゲージメント向上が期待できる。
誰もが楽しめる・能動的に楽しめることが重要
排他からインクルーシブへ
Generation Twitchの核心を突く3つ目の価値は、排他的なものからインクルーシブへの移行だ。以前は、アクセスが特定のグループにのみ限定される排他性という考え方が非常にもてはやされていた。Generation Twitchは排他的なものからインクルーシブなものへと移行しており、世界のどこにいるか、どれだけのお金を持っているかは関係ないはずだと考える。
Generation Twitchは、芸術、文化、学習、エンターテインメントに関しては、誰もが参加できるべきだと考えている。この世代は、社会に対する意識が高く、影響力を重視する傾向がある。彼らは包括性を重視し、ブランドに対してそれを行動に反映させるよう働きかけており、78%が「Twitchが誰にとっても多様なコミュニティである」ことに同意している。
受動から協力へ
4番目の変化は「個人主義・受動的な体験」から「コミュニティとの能動的なコラボレーション」というものだ。
ネットワークゲームにしろ1人プレイゲームにしろ、一般にゲームといえばこれまで「自分1人でプレイするもの」とされていた。だがTwitchのようなライブ配信サービスが登場・進化することで、そのプレイ体験をコミュニティで共有することが可能になった。実際にTwitchの視聴者もコミュニティの交流を望んでおり、コミュニティを重視する視聴者は74%だという。
「ブランドが若い世代からのエンゲージメントを得るには、ブランドの価値観を合わせるだけでなく、コミュニティに価値を与え、コミュニティからの参加を促す必要があります」とBattenbough氏。
BenQ Zowieは、タイ、韓国、日本の配信者がコミュニティからプレーヤーを募り一緒にゲームをプレイする企画を実施。その際に最新ゲームモニターを提供し、開封やセットアップも含めてコミュニティ内で会話が生まれた。
関心の低いものから目的のあるものへ
5番目は「目的型」への変化だ。先述したように、Z世代は元々自分の好きなモノやコトへの情熱が高く、ブランドの哲学やパーパスについて積極的に学ぶ傾向が強く、共感力も高い。実際、あるTwitchストリーマーが自身のがんを告白したところ、コミュニティから6万ドルの寄付が集まったこともある。
ライブ動画配信だからこそ本物感・インタラクティブ性が担保できる
まとめると、Generation Twitchの中核であるZ世代は、前世代に比べ、本物志向・流動的・包括的・共創意識・目的意識が強い。そしてTwitchのキャンペーンが若者から支持されるのも、Z世代の志向がまさにライブに適しているためだ。
Twitch視聴者の77%が「ライブ配信であるからこそ視聴に大きな意味がある」と回答しており、都合の良い事前編集ができないライブ配信だからこそ「本物」を実感できるという。さらに、74%が「ストリーマーと同じ感情を体験できているように感じる」と回答し、コミュニティが感情を共有している様子も見られる。
またTwitchがこれまで行った85のキャンペーンの内容や成果を調査したところ、Twitchは広告主に次の3つの価値を提供できることが判明した。第1に、Twitchはあらゆるブランドに門戸を開いており、Twitch視聴者の60%は「Twitchに広告を出したブランドを使用したい」という意向を持っていること。第2に、Twitch広告では遊び心を発揮できる大胆なクリエイティブが可能であり、多くの視聴者もそれを求めていること。第3に、Twitchストリーマーと協力することで、ブランドの訴求力が大きく高まることだ。
そんなTwitchをどんな手段で自社のマーケティングに有効活用するべきなのか。「Twitchキャンペーンは様々な効果をもたらしますが、特に顧客の生涯価値(LTV)向上に役立てることがでます」とBojko氏は言う。
動画でコミュニティの共感を促しLTVを向上
Sam Ho氏による"顧客生涯価値(CTV)"のセッションでは、Twitch視聴者の顧客生涯価値に関する最新の調査結果が紹介された。
前述の通り、Twitchの視聴者はミレニアル世代、Z世代、アルファ世代にまたがる多世代の視聴者であり、それぞれに人生の過渡期を迎えている。彼らのニーズは、人生の次のステージに移行するにつれて進化しており、一般的な人々と比較すると、彼らのライフスタイルに合った幅広い消費者カテゴリーにおいて、より多くのブランドと新たな関係を築きたいと考えているスイートスポットに位置している。しかし、ブランドにとって重要なのは、消費者との関係を最初の段階から育み、消費者のライフ・ジャーニーの一部として関係を維持し続けることである。同様に、消費者をブランド・コミュニティの一員として巻き込み、ブランドとの永続的な親和性を築くことで、消費者はより長期にわたってより多くの消費をしてくれるようになり、また、より多くのブランドを支持してくれるようになる。
また、Generation Twitchの視聴者は、ブランドに対して本能的な忠誠心を持っている。Twitchの視聴者は、信頼性を重視し、協調性があり、新しいブランドを発見することに前向きだ。彼らは逃げ腰ではなく、積極的にブランドと長期的な関係を築こうとしており、ブランドが自分たちのアイデンティティの一部であることを望んでいる。Twitchの調査から、Twitchのオーディエンスは、ブランドを前もって精査し、質問するのに時間をかけることがわかっている。彼らは、ブランドが何を目指しているのか、どんな価値観を持っているのか、製品がどのように機能するのか、なぜ他のブランドよりも優れているのか等を理解したいと考えているのだ。一度信頼を勝ち取れば、Twitch世代のオーディエンスは長期的にそのブランドに固定され、一般的な人々と比べて相当な忠誠心を示し、ブランドの真の不動の支持者や支持者となる。
Twitchのオーディエンスは、自分が熱中しているカテゴリーに非常に積極的で、消費者としての目が肥えているため、製品の機能、目的、哲学などの観点からブランドを精査するために一歩踏み出すことを厭わない。
高いLTVは、ブランド・エンゲージメント活動の好循環、すなわち、発見、相性の構築、つながりの深化、ブランドのエヴァンゲイジングの上に築かれる。その実例として、2つの事例を紹介したい。
チキンマッククリスピーの「激辛論争(#TheSpicyDebates)」
シンガポールのマクドナルドは、ゲーマーに向けて人気商品チキンマッククリスピーを訴求したいと考えた。そこで人気ストリーマーとタッグを組み、チキンマッククリスピーを食べながら「この商品はどれくらい辛いか」を議論する「激辛論争(#TheSpicyDebates)」を配信。コンテンツは5万4,000分(900時間)視聴され、ユニーク視聴は160%増、同時視聴者数最大という記録を叩き出し、商品の好感度も13%向上、配信前の過去3ヵ月と比較し3倍の売上増につながった。
配信2時間で2,000回以上語られたDoorDash
オーストラリアのフードデリバリー事業者DoorDashは、人気ストリーマーをキャラクター化したTwitch広告を制作し、コミュニティへのインセンティブを提供するキャンペーンを展開した。こちらも、やはり驚異的な視聴時間を達成している。この広告をストリーマーが配信すると、開始2時間でチャットでは2,000回以上「DoorDash」が言及された。コミュニティ内でブランドの会話が促進されたことで注目を集め、参加した視聴者はそのブランドに対して親近感やエンゲージメントを高めた。
Z世代とエンゲージを高めるためのパートナー
まとめると、高いLTVはブランド・エンゲージメント活動の好循環の上に築かれるものであり、それは消費者の注目を集め、機能的な驚きを通じて消費者を刺激し、ブランドの創造性と革新性によって消費者が見たこともないような際立った存在になることである。ブランドが発見されたら、次のレイヤーは、ブランドとTwitch世代の消費者の間に化学反応を起こすことである。ブランドの製品機能、目的、価値について透明性を保ち、誠実で本物の会話を通じてブランドへの信頼を築くのだ。ひとたび人々が、そのブランドが自分たちと関係を築けるものだと信じ始めたら、あとはつながりを深めていくだけだ。そうすることで、より信頼関係が深まるのだ。
本稿は6月6日に開催されたセッション「若年層のカルチャーにおける広告:新しい世代とのエンゲージメントを高めるには?」および、7日に開催されたセッション「Twitch視聴者にみる若年層との関係構築と顧客生涯価値(LTV)向上について」を元に作成しています。