デジタル×リアルで新しい体験を提供
──ここまで、2020年から2022年にかけての変化を振り返ってきました。2023年以降はどのような変化が考えられますか。
今年はリアルへの回帰がますます加速すると思います。リアルな体験やヒューマニティを感じる体験から遠ざかっていた分、人に会う喜びや、直接見て触れて感じる喜びを改めて認識し、自分のニーズに合うものを効率的に見つけられるデジタルと、思いがけずに素敵なものに出会うセレンディピティがあるリアル、双方のシナジーで生活者の体験をより豊かにしていくことが求められると思います。
一方で、コロナ禍で根付いたマスク着用の習慣とどのように付き合っていくかという課題はあります。我々の調査では「マスクを着用したい」と回答する方は多く、着用理由を年代別に見ると40代以上が「新型コロナウイルス対策」と答えているのに対し、若い世代は「顔全体を見せるのに抵抗がある」などの回答が上位になっています。
資生堂としては、マスクとの向き合い方の多様性を認めつつも誰もが自分らしさに自信を持ち、豊かな表情で過ごせる毎日を、化粧の力で後押しすることで、新たな美の文化や前向きなムードを醸成していきたいと考えています。
──国内ではどのブランドに注力していく計画なのでしょうか。
中・高価格帯に力を入れていくことは変わりませんが、コロナ禍で化粧品市場は低価格帯と高価格帯の二極化が進んだため、特にエリクシールやマキアージュといった中価格帯のブランドの成長を加速させながら、コロナ禍で伸長している敏感肌やトラブル肌に対応するスキンケアなど、生活者の変化したニーズに合ったブランドを強化していきます。
中価格帯のブランドは、肌に触れる応対の制限や成分や機能を打ち出す低価格スキンケアの流行によって厳しい状況が続きました。しかし、その期間で強化したデジタルでの発信力とリアルでの人の肌に触れ寄り添う応対との掛け合わせで、生活者への体験価値を高めることができ、現在は順調に売上も回復してきています。
多様な人の「美しくなりたい」に応える体験を
──2023年、国内市場のマーケティングにおいて注力していきたいことを教えてください。
今年取り組んだのが、「みんな、いい顔してる。」をメッセージとしたキャンペーンです。様々な表情が行き交い始めた毎日をともに喜びたい、美の力を通じて日本中が「いい顔」であふれることを後押ししていきたいという想いを込め、新聞広告やテレビCM、デジタル広告、屋外広告を通じて発信しました。 また、キャンペーンと連動したイベントの開催、SNSでの発信をPBPや得意先の協力のもと行っています。様々な方の協力によって、着実に「いい顔」の輪が広がっていますので、このようにデジタルとリアルを上手く掛け合わせた体験を充実させていきたいです。

──最後に今後の展望を教えてください。
資生堂には、どんな人の「美しくなりたい」という気持ちにも応えられる要素は整っていると思っています。しかし、まだそれが伝わっていない、届けきれていないお客さまも多いので、多様なお客さまに応えていける商品・サービスを充実させていきたいです。そのときに活かされるのが、スキンビューティーを実現する技術と90年以上のカウンセリングで培ってきた人の心に寄り添い記憶に残る体験を生み出す力です。これらを組み合わせてデジタル×ヒューマニティな体験を提供していきたいです。