進むリッチ化と上がるサプライズのハードル
佐藤:本セッションのモデレーターを務めるMOTTOの佐藤です。様々なデータが示しているように、アプリゲームは日本において一大産業へと成長しました。マーケットがグローバルにも展開する一方、成熟期ゆえの頭打ちも見られます。そんなアプリゲームビジネスの現在と未来、そして未来に向けて今から取り組めることについて、業界リーダーのお二人と議論していきます。
佐藤:一つ目のアジェンダは「アプリゲームビジネスの現在」です。お二方にはそれぞれキーワードを用意していただきました。
異儀田(MIXI):私のキーワードは「低いサプライズ」です。直近のアプリゲームのトップセールスランキングを見ると、顔ぶれが大きく変わることはなく、驚きのあるコンテンツが出てきていません。開発者視点でも「これはやられたな」と思うコンテンツが出てきた記憶が直近はあまりないですね。
異儀田(MIXI):先日6,000万ダウンロードを達成した「モンスターストライク(以下、モンスト)」は、おかげさまで10年間ランキングのトップ圏内にいますが、私たちは企業理念である「ユーザーサプライズファースト」を常に意識しながら、ユーザーに少しでも驚きを届けられるよう施策を工夫しています。とはいえ、モンストを日々プレイしてくださっているユーザーは我々が仕掛けるサプライズを享受しているかもしれませんが、外から見ているぶんには「変わり映えしない」と感じる方もいるでしょう。
小泉(WFS):私は「スーパーリッチ化」をキーワードに挙げます。中国や韓国のゲーム会社は、開発やプロモーションにかけるヒト・モノ・カネの規模が日本企業と桁違いです。そのため、超ハイクオリティのゲームを次々と生み出しています。
小泉(WFS):中国や韓国のゲーム企業が、潤沢な資金でハイクオリティなゲームをつくり、メガプロモーションで日本に進出していることで、ユーザーがゲームのクオリティに求めるレベルが日に日に上がっています。日本企業が新しいサプライズを届けたくても、サプライズのハードルが上がっているわけです。ここに現在のアプリゲームビジネスの特徴があると考えています。
佐藤:ユーザーが良いものに慣れてしまっているからこそ「新しいものに対して感動を得にくくなっている」というのが現在の市況感なのかもしれませんね。
いかにユーザーを定着させるか
佐藤:異儀田さんは「高いスイッチングコスト」というキーワードも挙げてくださいました。
異儀田(MIXI):特に長寿タイトルの場合、ゲームをドラスティックに変えることはなかなかできません。なぜなら、ユーザーは今のコンテンツを気に入っているから継続的にプレイしたり課金したりするからです。また、小泉さんがキーワードとして挙げたスーパーリッチ化により、アップデートはもちろん、新規ゲームの開発に際しても大きなコストがかかります。
モンストのユーザーを見ていると、新しく出たタイトルに一度は振り向いてプレイしても、最終的には長く親しんだモンストに戻って来るケースが結構あります。つまり現状は、多大な開発コストをかけてアップデートや新規ゲームの開発をしても、ユーザーが定着しにくい状況と言えるでしょう。トップセールスランキングの顔ぶれが固定化している理由もそこにあるかもしれません。
小泉(WFS):私も「多くのユーザーを抱えているタイトルからいかに人を連れて来るか」と頭をよぎったことはあるものの、そのアプローチは間違っていると考えています。ユーザーが数年単位で長く楽しんでいるタイトルから完全に離れることはほとんどありません。そのため、当社では長寿タイトルが抱えているユーザーをメインターゲットには設定していません。
佐藤:今お二人から挙がった課題は、アプリゲームに限らずどの業界の企業も抱えているはずです。ゲーム以外のアプリビジネスでも、同じ状況が生まれるのではないでしょうか。マーケットが成熟し、ユーザーがクオリティの高いコンテンツに慣れていく中、自社のアプリを使ってもらうための工夫が求められていると思います。
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