※本記事は、2023年12月刊行の『MarkeZine』(雑誌)96号に掲載したものです
超・注目事業の始まり
『MarkeZine』75号で紹介したMicrosoftによるActivision Blizzardの買収は、この発表(2022年1月18日)の後、欧米各当局による審査が継続されていた。あれから約1年半が経った2023年10月、各国当局での承認を得て、Microsoftによる買収完了の報告があった(筆者の予想通り!)。
当時のレートで約7.6兆円だった657億ドルの買収額は、現在の円安レート(1ドル=約150円)ではなんと約10兆円価値に跳ね上がる。筆者はこの巨大M&Aを、単にゲーム業界に閉じた話ではないと考える。既存のゲーム業界の視点を拡大させ、まだ見ぬ世界を創っていく、「新概念」の超・注目事業の始まりである。
日本の報道で比較されているSONYや任天堂などのゲーム事業を持つ企業とは違い、MicrosoftのAnnual Report(有価証券報告書)には「ゲーム」の事業セグメントがない。これが、Activision Blizzardの買収は「ゲームに閉じていない」と繰り返す最大の理由だ。
図表1はMicrosoftの主要な事業セグメントだ。利益を認識する事業は3つの部門に大別されており、Activision BlizzardやXboxなど(私たちが一般的に考える)ゲーム事業は、WindowsやBingと同じ部門に集約されている。ここに今回のM&Aを読み解く鍵がある。
このうち稼ぎ頭は、「1.B2Bビジネス部門」と「2.クラウド部門」の2部門。「3.消費者向けコンピューティングサービスの拡大」は、1と2のアカウント増につなげるための撒き餌、営業部隊の一部として機能する役割を持っているように見える。
今回、Microsoftが10兆円を注ぎ込んだActivision Blizzardが「消費者向けコンピューティングサービスの拡大」部門の営業利益に貢献するのは、約0.2兆円の規模だ(参照:Activision Blizzard 2022 Annual Report)。Microsoftにおける直近2年間の総収益と営業利益(図表2)を見ると、その規模の小ささがわかる。
EV/EBITDAで算出すると約22年かけてやっと回収できるとされる規模の巨額投資を、この小さいインパクトのために行ったことになる。となると、素朴な疑問として生まれるのが下記の問いだ。
- 弱小ゲーム分野になぜ巨額投資を?
- 得意分野のB2Bやクラウドより、ゲーム分野の未来は何がそこまで魅力的なのか?
- どこかにネジが1個取れたような間違いがあるのでは?