なぜ、マーケティングのプロセスは“樹海”なのか?
MarkeZine吉永(以下、MZ):マーケティング入門連載の第1回では、マーケティングとは何なのか、その定義について西口さんから伺いました。
【マーケティングとは】
顧客のニーズを洞察し、顧客が価値を見いだすプロダクトを生みだすこと。さらに、その価値を高め続けて継続的な収益を生みだし、その収益を再投資して新たな価値をつくり続けること。
(『マーケティングを学んだけれど、どう使えばいいかわからない人へ』p46より改変)
MZ:引用した書籍では、マーケティングのプロセスを“樹海”と表現しています。このような比喩をされるほど、マーケティングが複雑なのはなぜでしょうか?
西口:多くの人がマーケティングの樹海でさまよってしまう理由は、大きく2つあると思います。一つは「定義が曖昧」であることです。そもそも、定義がはっきりしていないことを理解するのは難しく、実行することもできません。
また、定義があいまいだと各社や各部署が都合よく解釈し、誤解や過剰な期待が生まれます。それに応えられないと、マーケティング活動自体が過小評価されてしまいます。
しかし、今から日本やグローバルで「マーケティングの定義を決めよう」と旗を上げるわけにもいきません。もちろん、各種の協会や書籍などではそれぞれの定義があるので、それらを参考にしながら自社の現実的な活動に照らし合わせて、自社や関係各社で「こういうことを目指す」と共通認識を作ることが大事です。
次々と登場する「〇〇マーケティング」
MZ:2つ目の理由は何でしょうか?
西口:「様々な方法論や手法が増え続けていること」です。前提として、古典的なマーケティングの方法論や手法がありますよね。「4P」「STP」「SWOT分析」といった用語を、吉永さんも聞いたことがあると思います。
MZ:はい。横文字や短縮が多く、2つ3つ読むだけでも複雑だと思うことがあります。
西口:そうした声を、私もよく聞きます。これらの古典的な理論は、もちろん今でも有用な部分はありますが、いずれもインターネットが浸透する前に確立された理論です。この20年ほど、デジタルがすっかり生活者に定着したことで、方法論や手法の数は加速的に増えています。
実際、そうした多くの新しい発想や提案によってマーケティングが進化してきた側面はあると思いますが、その分マーケターが学ぶことも限りなく広がっています。「〇〇マーケティング」と銘打った新しい手法が、今も次々と登場していますよね。
MZ:たとえば「SNSマーケティング」「バズマーケティング」も、そこにあてはまるでしょうか?
西口:そうですね。SNSはもはや一般用語ですが、SNSが世の中に浸透してマーケティングに有効だとされ始めた当初は、目新しい手法として打ち出されていました。