反トラスト法で手足を縛られたMicrosoft
さて、1990年代は、MicrosoftがWindows95の爆発的なヒットによって市場を席巻していた時期である。そして、1998年、この年が、IT業界にとって重要な年になった。その1998年、米司法省は、「市場での独占的立場を悪用して消費者の利害を侵害している」として米Microsoftを提訴した。そして、同じ1998年、それを横目で見るかのように、米Googleが設立された(参照:「これまでの歩みと現在(About Google)」)。さらに、1998年、米Appleの復活を告げる「iMac」が誕生した(参照:「初代iMacの誕生とアップルを救ったスティーブ・ジョブズの戦略」)。
1998年の米Microsoftの独禁法訴訟は、そのあと、10年以上にわたって尾を引いていく。「これで12年の長きにわたった歴史的な戦いが名実ともに終了したことになる」と記事にある通りだ(引用:「米司法省、Microsoftとの12年にわたる独禁法訴訟の終結を発表」)。
1998年当時、私はシリコンバレー在住でMicrosoftの下請け企業で働いていた。そして、この訴訟以降の変化を目の当たりにした。それまで、生き生きと働いていたMicrosoftの社員の雰囲気は日に日に変わっていき、官僚的で閉鎖的になり、「外部の人に下手なことは言えない」と発言も気をつけるようになった。それまでのように、イノベーションや変革を起こす最先端企業という雰囲気は、あっという間になくなっていったのだ。
1998年、日々落ち込んでいくMicrosoft社員と接しながら、同時に私はGoogleを使うようになる。日々の仕事で、MSN向けのコンテンツを作っていたため、情報収集のためにネットサーフィンをする。Googleの検索エンジンの評判を口コミで知り、そして、毎日毎日、Googleで情報収集をして、MSN向けのコンテンツを作成するというのが、私の業務だったのだ。サンフランシスコ市内の業界のパーティーなどでGoogle社員と知り合い、効果的な検索テクニックを教えてもらい、そして、そのテクニックを使って、MicrosoftのMSNのためにコンテンツを作成していた。
そして、1998年、米Apple本社までハイウェイを飛ばして、iMacを見に行った。結局、購入はしなかったが、その美しさに魅せられたのを覚えている(参照)。ただ、当時から Windowsマシンと AppleのPowerBook(参照)の両方を使っており、かつ、どちらかといえば、Macユーザーだったため、AppleのPowerBook を使って毎日 Googleで検索し、MicrosoftのMSNのためのコンテンツを作成していた。
その後、Microsoftの凋落の間隙を縫うように、Googleの急成長と快進撃が始まり、かつ、スティーブ・ジョブズの復活劇が幕を開ける。反トラスト法によって、Microsoftの手足が縛られている間に、Microsoftの成功から学んで市場を奪うのだ。そんな話を当時のシリコンバレーの酒場でよく聞いたものだ。 1998年以降、Googleは、検索市場でのシェア拡大後に AdWords(現・Google広告)を開始、そして、Gmail提供、Android買収、YouTube買収、Urchin(現・Google Analytics)買収、Double Click買収などなど、着々とネット広告業界の覇者として成長していった。Appleは、その後、iMacで息を吹き返し、iPod、iPhone、iPad、Apple Music、Apple TV、Apple Watch、AirPodsと次々とヒットを連発していく。