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反トラスト法訴訟を乗り越え、復活を果たしたMicrosoftから学ぶこと

Microsoftは、どうやって反トラスト法訴訟を乗り越えて復活したのか?

 1998年から約25年経過した今、Microsoft、Google、Appleの3社はそれぞれ異なる道を辿りながらも、巨大IT企業として世界的な存在感を強めている。この3社の中で特に目を惹くのは、やはり、Microsoftだろう。一度は、あきらかに凋落した。それは、反トラスト法・独占禁止法訴訟の影響で、手足を縛られていたからだった。

「マイクロソフトの場合、後年バンドル戦略は機能しなくなった。独占禁止法違反の調査を受けてから、同社はPC用OS市場では支配力を維持できたものの、他の多くの市場では他社に抜かれている」(引用:『ネットワーク・エフェクト 事業とプロダクトに欠かせない強力で重要なフレームワーク』アンドリュー・チェン著

 しかしながら、Microsoftは、見事に復活してきた。2024年1月12日付の株式市場で「マイクロソフト、時価総額で首位奪還 2年強ぶりにアップル抜く」というニュースが出ていて、時価総額で世界一に躍り出ている。

 それとは対照的に、GoogleとAppleは、反トラスト法・独占禁止法訴訟を抱えるようになってしまった。ちょうど四半世紀を経て、まるで、立場が入れ替わったようなのだ。MarkeZineの読者ならニュースでご存知だと思うが、最近の主なニュースや記事を列記しておこう。

「グーグル検索エンジンの独禁法違反訴訟、口頭弁論で双方が主張展開」(2023年9月13日)

「(令和5年10月23日)Google LLCらによる独占禁止法違反被疑行為に関する審査の開始及び第三者からの情報・意見の募集について」(2023年10月13日)

「Apple・Googleの独占制限へ新法 アプリや決済で」(2023年12月26日)

「米司法省、独占禁止法違反でApple提訴を検討 米報道」(2024年1月6日)

 これまでの経験から懸念されるのは、2024年、GoogleとAppleは反トラスト法訴訟で手足を縛られ始める年になってしまうのではないか?ということだ。訴訟が起こると、会社という組織はどうしても守りに入ってしまう。組織の文化が閉鎖的・硬直的になり官僚的になる。IT業界を代表するGoogleとAppleには、Microsoftの凋落の二の舞になって欲しくない。この2社が停滞・凋落すると、業界的な悪影響だけでなく、社会全体のイノベーションにも影響を与える。ここで、ヒントになるのが、Microsoftは、どうやって反トラスト法訴訟を乗り越えて復活してきたのかだ。今、復活を果たしたMicrosoftから学ぶことは多いはずだ。

 たとえば、「How Microsoft Became Innovative Again」という論文を Harvard Business Reviewが掲載している。「a cultural shift, driven by CEO Satya Nadella」などのフレーズが並び、Microsoft復活の要点を、「cultural shift」(文化の刷新)に求めている。また、MicrosoftのCEOであるサティア・ナデラの著書『Hit Refresh(ヒット リフレッシュ)』や『マイクロソフト 再始動する最強企業』などにも、こう書かれている。

「2014年2月にマイクロソフトの第3代CEOに指名された時には、この会社の文化を刷新することが自分の最優先事項だと社員に告げた。そして、誰もが入社時に抱いた、世界を変えるという目標に立ち返れるように、イノベーションの障壁となるものを容赦なく取り除くことを誓った。」(引用:『Hit Refresh(ヒット リフレッシュ)』サティア・ナデラ, グレッグ・ショー, 等著

「文化が違うからだ。文化が変わらなければ、会社を変えていくことは実は難しい。ピーター・ドラッカーもこんなことを言っている。『文化は戦略を上回る』。カルチャー変革は、マイクロソフトの今回の変革の重要なポイントになっている。」(引用:『マイクロソフト 再始動する最強企業』上阪 徹著

 そして、その「cultural shift」(文化の刷新)の核心は、なんだったのか? 反トラスト法訴訟で一度は凋落しつつも、その復活を支えた理念は何だったのか?

「ここで出てきた「グロースマインドセット」こそ、マイクロソフトのカルチャー変革のキーワードになった言葉だ。すべてを成長という視点で捉えていこう、という考え方。何か絶対的に正しいものがあるのではなく、常にオープンでいろんなシグナルに対して前向きに取り組んでいく。自分をどんどん変えていく。チャレンジや変化を促進し、積極的に新しい取り組みをやっていこうというメッセージである。」(『マイクロソフト 再始動する最強企業』上阪 徹著

「キャロル・ドゥエック博士の著書『マインドセット  「やればできる!」の研究』(今西康子訳、草思社、2016年)を私にくれた。それは、自分ができると信じれば失敗を克服できるというテーマの本だった。<中略> 固定マインドセット(Fixed Mindset)は自分を制限し、成長マインドセット(Growth Mindset)は自分を前進させる。生まれ持った能力は、出発点にすぎない。情熱、努力、訓練次第で、その能力を高められる」(引用:『Hit Refresh(ヒット リフレッシュ)』サティア・ナデラ, グレッグ・ショー,等著

 2024年、AI(および、生成AI)のブームがさらに社会に浸透し、実際の業務で利活用されるケースが増えていくだろう。それを一過性のブームに終わらせないために必要なことは、改めて、ネットワーク効果を意識して、ビジネスモデルを構築していくことである。そして、反トラスト法訴訟などネガティブなインパクトをポジティブなエネルギーに変換していくために、我々は「Growth Mindset」を忘れずに、ひとつひとつの仕事を丁寧に行い、そして、一歩一歩、前進していく。決して派手な印象のないサティア・ナデラがやっていることは、そういうことではないだろうか。

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この記事の著者

ヴァイオレット・エヴァーインディゴ(ヴァイオレット・エヴァーインディゴ)

1990年代に米国西海岸に留学し、シリコンバレーで就職。1998年のGoogle誕生に衝撃を受け、ネット広告・デジタルマーケティング領域に職域を転換。2000年代初めに帰国。米国大手IT企業・プラットフォーマーを6社経験。デジタルマーケティングのコンサルティングを生業とする。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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2024/02/02 09:00 https://markezine.jp/article/detail/44645

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