※本記事は、2024年2月刊行の『MarkeZine』(雑誌)98号に掲載したものです
【特集】お客様の「ご愛顧」を得るには?
─ CRMを成功に導くポイント 企業と顧客を繋ぐ「顧客シンクタンク」としての可能性
─ 花王は顧客と直接つながり、ブランド価値を伝えていく ――「My Kao」の取り組み
─ 国内清涼飲料No.1の「サントリー天然水」が証明する、一貫したブランディングの強さ(本記事)
─ 購入以外のアクションにも価値を見出す 会員プログラムのリニューアルに込められた狙い
─ 良い意味で期待を裏切る、横浜DeNAベイスターズのファン増加戦略
─ 三菱地所が目指すA partner in lifeとは? 家を買って終わりではない継続的な関係
「サントリー天然水」が築いてきたブランド価値
──はじめに「サントリー天然水」の成り立ちから教えてください。「水はタダ」という価値観だったところから、どのようにここまで成長されてきたのでしょうか?
「サントリー天然水」を発売したのは1991年、最初は2Lの大容量サイズから展開を始めました。おっしゃるとおり、「水を買う」という習慣がそもそもなかったところからスタートしており、この30年ほどで徐々に市場を拡大させてきた形です。数字を見ると、過去30年間でミネラルウォーターの市場は約30倍になっており、2018年には「サントリー天然水」が年間販売数量で国内清涼飲料ブランドNo.1のポジション(※サントリー調べ)を獲得するまでに成長しました。2023年は昨対で+7%と過去最高の販売実績を記録しています。
「サントリー天然水」に限らず、ミネラルウォーター市場の全体的な傾向として、地震や猛暑などの自然災害や汚染問題などが起きると需要がぐっと伸び、以降その需要が定着していくという特徴があります。そうした成長を繰り返しながら、近年は健康志向の高まりも追い風となり、成長速度が高まっている状況です。
──水は“無味無臭”ですので、マーケティングにおける差別化が相当難しいのではと想像します。「サントリー天然水」がNo.1ブランドであり続けられる理由を探りたいのですが、マーケティングの基本方針を教えていただけますか。
「サントリー天然水」の水は、水源の調査を重ね、水量や水質にこだわり抜いて選定した採水地で採れたものです。とにかく水にこだわっており、非常に質の高い水をご提供していると自負しています。ただ、たしかに、水は無味・無色・無加工です。ゆえに差別化を図りにくいという課題にはこれまでも頭を悩ませてきましたし、今後もずっと向き合い続けるのだろうと思っています。
また、「サントリー天然水」は家庭用のミネラルウォーターですから、価格も高いわけではありません。店頭で120円前後の水を選ぶとき、どれを買おうか具体的に悩む・考えることはなかなかないでしょう。となると、お客様に選んでいただくためには、店頭の棚の前に立ったとき、「サントリー天然水」に関する何かしらのイメージが頭の中に残っていて、それが瞬時に出てくるかが問われてきます。マーケティングにおいてはこの点を重視し、一貫したブランドイメージを醸成してきました。
具体的には、水の透明感、冷たさ、水源地の大自然、動きのある水の様子などをセットで見せることにより、「サントリー天然水は間違いない商品だ」と感じてもらうようなコミュニケーションを行っています。これは、私が「サントリー天然水」を担当するずっと前から長年続けてきたことです。今のブランドのポジションは、そうして作り上げてきたものだと感じています。
──情緒的に訴求するブランディングが“顧客のご愛顧”の源泉になっているんですね。
ブランドイメージは定期的に細かく調査・分析しており、それが購買につながっているかも注意して見ています。ブランドイメージの調査は、ブランドの健康診断のようなイメージですね。我々は「サントリー天然水」が持つブランドイメージに関する共通言語として「清冽さ」という言葉を用いるのですが、この「清冽さ」を構成するような要素、たとえば先述した水の透明感や冷たさ、自然といったイメージをしっかり保てているか、その先の購入意向がともなっているかなどをつぶさに見ています。
──日本は、短期的・単発的なブランディングに留まっているブランドが多いように思います。「サントリー天然水」がブランドの創設時から一貫したブランディングを行ってこられたのは、なぜでしょうか?
それには、「サントリー天然水」のデザインを長年担当してきた天然水の番人のような人が社内にいたことが大きく影響していると思います。ブランドとして大事にすべき部分、お客様に支持されている部分、いわゆるブランド・エクイティが何で構成されているのか、誰よりも把握している人がいました。彼がブランドマネージャーやチームメンバーにそれを伝え、社内異動でメンバーの入れ替わりがあっても、みんなでそれを語り継いでいくサイクルを回せていることが、ブランド・エクイティを長年守れている理由なのかもしれません。