顧客にとって価値になりそうな要素を提案する
MZ:今伺った牛乳の例では、WHOとWHATが複数出てきましたね。
西口:その通りです。WHOとWHATの組み合わせ次第で、価値が成り立つか、つまり購入や利用に至るかどうかが変わります。
ですからプロダクトを提供する側の企業は、「自社プロダクトのどんな点がどんな方に受け入れられそうか」を深く細かく考える必要があります。逆に、こういう方に受け入れられるのはこんなプロダクトだ、と顧客の側から逆算してプロダクト開発をするケースも十分あり得ます。
顧客とプロダクトの組み合わせがしっかり見出せたら、どうしたら買っていただけるかの施策、つまりHOWもおのずと絞り込めます。
MZ:こういう訴求だと響くけれど、これだと響かなさそう、などがわかってくるわけですね。
西口:提案の仕方を変えたら、パッと価値を見出していただけることもあります。私が20代の頃の体験を紹介すると、ある夏にフリーマーケットで古着を売っていて、夕方まで売れ残っていた男物のシャツがありました。どうしたら売れるかを考えていると、たまたま50~60代くらいの女性が手に取られ、サイズ感はどうかなど少し話をしました。
でも決め手に欠けるようで、あと一押ししたくて私が思いついたのは「冷房などで寒いときに羽織るのにちょうどいいし、軽いから持ち運びしやすい」ことでした。そう伝えると、納得して買ってもらえました。
価値は「便益」と「独自性」から成り立つ
MZ:その人にとって、シャツのデザインやサイズ感だけでは買うほどの価値を見出せなかったけれど、具体的な用途なら価値になり得たのですね。
西口:そうですね、当時はもちろんそんなことは考えていませんでしたが、今思えばこれが「プロダクトに価値が生まれた瞬間」だったのだと思います。
MZ:連載の第1回でマーケティングの定義を伺いましたが、価値も定義されていますか?
西口:はい、価値とは「便益」と「独自性」の両方をあわせ持つものだと定義しています。
【価値とは】
「便益」と「独自性」の両方をあわせ持つもの(『マーケティングを学んだけれど、どう使えばいいかわからない人へ』p56より改変)
西口:プロダクトが便益と独自性を提案し、それに対して顧客が価値を認めたとき、購入や利用が発生します。

西口:それぞれ説明すると、まず便益とはそのプロダクトが有する具体的なベネフィットや利点です。おいしい・楽しい・便利だ・困りごとが解決する、などの要因となるものです。
どんなカテゴリーのどのプロダクトでも、顧客にとって何らかのプラス要素、あるいはマイナスを解決してくれる要素がなければ選ばれません。したがって便益をシンプルに表現すると、「選ぶ理由・買う理由」になります。

一方で独自性とは、そのプロダクトならではの唯一無二の要素です。つまり、「他の競合品や代替品を選ばない理由・買わない理由」といえます。
たとえば頭痛薬の市場で、自社プロダクトだけが独自の有効成分Aを含んでいたら、それは独自性ですよね。ところが競合のどの商品にもAが含まれていたら、顧客にとって性質の差はなくなり、一番安い商品が選ばれるでしょう。