ロイヤルユーザーを大切にし、新規拡大も目指したスーパードライのフルリニューアル
松山:マーケティングは戦略に従うべきと言いますが、生ジョッキ缶の場合は、一つの具体的なアクションが戦略を動かしたといえるでしょう。
今までになかったような商品を作る場合は、「今と比べてベターか」という話ではありません。すべてを同じフレームワークに当てはめるのは難しいため、独自性が高いものやイノベーティブなものは、小さく始めてスピーディーに検証しています。
長:生ジョッキ缶のようにアイデアから始まって、スレッショルド(基準)を超えて大ヒットに至った商品もあれば、ロイヤルのお客様に愛され続けながらも新規拡大を目指す商品もあるなど、両輪で進められているのですね。
松山:『アサヒスーパードライ』をフルリニューアルする際は、ロイヤルユーザーの方の気持ちや感覚を大切にしながら進めました。しばらく時間をあけて温度が変わったとき、毎日飲んだときなど、様々な角度からテストを行い、どのシーンでもロイヤルユーザーの方がリニューアル後の商品を選ぶかをチェックしました。そのうえで、普段あまりスーパードライを飲まない方に対しても、期待値が膨らむようなマーケティングの設計をしました。

顧客起点マーケティングの始め方
長:顧客起点のマーケティングの取組を始めたいと考えながらも、いざ取り組みをはじめるにはどうすればいいかわからない経営者やマーケティング責任者も多いかと思います。顧客起点のマーケティングを始めるには、まず何から取り組めばよいでしょうか。
松山:仕事かどうかは別として「誰にどんなものを届けたいか」を考えてみるとよいのではないでしょうか。
アサヒビールの社員であれば「お酒があまり飲めない家族に、アルコール度数は低くても楽しめるお酒を届けたい」など、何でもいいと思います。友達や同僚、恩師でも、心を込められるN1を思い浮かべ、その人に「こんな商品やサービスを届けたい」「こんな気持ちになっていただきたい」と考えると、一般論ではなく、固有名詞と固有名詞の関係になります。
アルコール分3.5%の『アサヒスーパードライ ドライクリスタル』を作ろうとなったとき、この商品は若年層を含む幅広い方をターゲットとしていますが、私の頭に最初に思い浮かんだのは父でした。高齢のためあまりお酒を飲むことはできないのですが、やはり晩酌をしないと物足りないと言っていて。それならとドライクリスタルを飲んでもらったところ、非常に喜んでもらえました。今では毎日1本飲んでいるそうです。
企業活動もそうですよね。「誰かを喜ばせたい」「誰かの困りごとを解消したい」という思いからすべては始まります。その「誰か」が最終的にマスにならなければ商売にはならないかもしれませんが、最初の一人は自分にとって大切な人でよいのではないかと最近特に強く感じています。
長:「自分の周りの誰かを喜ばせる」こと。まさに、N1の真髄ですね。BtoC・BtoB問わず、顧客起点マーケティングをとりいれようと考えている企業でも、考え方次第ですぐに始められそうです。松山さん、本日はお話を聞かせていただき、ありがとうございました。
