「ビンゴDM」と「ほたてDM」で顧客コミュニケーションを活性化
MarkeZine編集部(以下、MZ):まず、皆さんのご経歴と現在の業務・ミッションについて教えてください。
三好:2001年にプラナコーポレーションに入社し、営業として通信販売事業者の支援を行い、ダイレクトマーケティングに従事してきました。その後、2010年にプラナコーポレーション大阪で代表取締役に就任し、2018年に北海道産地直送センターをM&Aでグループ化したことで、同社の代表取締役に就任しました。現在は、M&Aで取り入れたノウハウやDXへの知見をフルに活用して、一次生産者支援事業および地方創生に取り組んでいます。
伊東:プラナコーポレーション東京にて、営業職としてメディアバイイングやインフォマーシャルの企画・提案に7年ほど携わっていました。2021年1月からグループ会社であるプラナクリエイティブに異動し、現在ではディレクターとして紙媒体を中心に、新規獲得に向けた広告制作やCRM改善を目的とした各種ツールの企画・制作を行っています。
森山:2017年にプラナクリエイティブに入社し、通販企業のCRM改善のためのDMやツールなどの制作業務のディレクターを担当しています。MZ:今回、北海道産地直送センターは、二つのDM施策で第38回全日本DM大賞(以下、DM大賞)の金賞を受賞しました。これらの施策の概要を教えてもらえますか。
三好:一つ目は、「ビンゴDM」です。年3回以上当社で商品を購入したロイヤルユーザーがターゲットで、顧客コミュニケーションの強化と購入回数のさらなる引き上げの両方を目指して制作しました。ビンゴゲームを取り入れたクリエイティブで、受け取ったユーザーに日頃の感謝の気持ちを伝えつつ、4回目の購入を促しています。ビンゴのマスには対象のお客様による過去2年分の購入履歴をデータ分析して商品を選定し、反映しました。
二つ目が「ほたて型DM」です。ターゲットは、ECでほたてを購入したことがあるが、通年のDMやアウトバウンドコールの効果があまり高くなく、購入単価が一定金額よりも低い顧客でした。こちらの施策ではDMに個別の二次元コードを掲載し、DMへの反応率やEC流入者の行動まで調べました。このように、紙のDMを活用して、従来のWebマーケティングで行うような調査を行っていきました。
年に3回購入してくれたロイヤルカスタマーの引き上げを目指した狙い
MZ:多くの企業では、顧客の購入金額向上を目指して、F2転換率の向上を図ることが多いです。今回貴社が、既にコミュニケーションが取れているロイヤルユーザーの引き上げを狙ったのはなぜでしょうか。
三好:理由としては、四季ごとに旬な商品をお届けできる機会があるので、年に3回購入してくださった方には、4回目の購入を促せるのではないかと考えたためです。
また、当社の商品とお客様との親和性の高さも理由として挙げられます。これは、1回しか購入されていないお客様よりも、既に3回購入いただいている方のほうが当社との親和性が高く、購入回数の引き上げにつながりやすいと考えたためです。
MZ:ほたて型DMは、第37回の「DM大賞」で銀賞を受賞したものをブラッシュアップしたものとのことでした。具体的にどのような点を変更したのでしょうか?
森山:昨年から、顧客アンケートの結果を基に「お客様ごとに適切な内容でコミュニケーションを行うことで施策の反応率が上がる」という仮説に基づいて施策を行ってきました。今回はそれに加えて、過去の購買履歴のデータを再度精査した上で、初回にほたてを購入した方に絞りました。
また、前回は特定の商品を購入した人をターゲットにしたわけではなかったので、二つ折りの一般的なDMでした。しかし、今回は初回購入時にほたてを購入した人がターゲットだったため、DMの形をほたて型に変更し、開封率向上を目指しました。
ターゲットをあえて絞ることでメッセージを分散させない
MZ:今回のDM設計にあたり、どのような工夫を施しましたか。
伊東:ビンゴDMには、対象顧客の過去商品購入履歴を反映したビンゴカードと、対象顧客を担当するコールセンタースタッフの顔写真付きの直筆お礼状を同封してお送りしました。これには、お電話だけでは伝えきれない日々の感謝の気持ちを伝えるという目的がありました。
普段、対象顧客とのコミュニケーション手段は電話がメインですが、挨拶状に担当スタッフの顔写真と直筆のメッセージを掲載することで、声だけのコミュニケーション以上に親近感や信頼感を感じていただけることができたと思います。
ビンゴカードは元来、5マス×5マスの設計で、真ん中のマスは初めから開けて良いというルールです。今回のDMではその特性に着目し、対象顧客の過去2年分の購入履歴を基にした商品群を、縦・横・斜めの4列のマス目に配置することで、4回目の購入を後押しできるよう設計しました。また、1列揃えるごとに北海道産地直送センターの商品をプレゼントするという独自ルールも設定し、ビンゴへの参加意欲を高めることにも成功しました。
森山:従来、北海道産地直センター様では、食品を扱う一般的な通販と同様にECでのリピート率・購入単価が低いという課題を抱えていました。そこで、ECでのリピート率の改善を目標に入口商品であるほたての購入者に向けて送付したのが、ほたて型DMです。顧客属性や行動・嗜好パターンに加え、過去の購買データに基づいてほたてと買われている商品をランキング形式でレコメンドすることでクロスセルを促進。初回購入商品をほたてに絞ることで、メッセージを分散させてしまうことなく、より適切なコミュニケーションを行い、最適化につなげられました。
また、クリエイティブの決定段階では、ABテストを実施しています。人気のほたてとセット商品を勧めるA案と、ほたて以外の別商品を単品で勧めるB案を比較した結果、A案が購入単価・レスポンスともに高くなることが確認され、効率化できました。
二次元コードとほたて型のDMを活用し顧客購入単価が2倍以上に
MZ:プラナクリエイティブが普段クリエイティブ制作を行う際に、特に意識されていることはありますか。
伊東:最も重要なのは、目的と目標値の設定だと考えています。お客様とお話をしていると、費用対効果の面が真っ先に議論に上がることや、途中で企画の軸がブレ始めることも少なくありません。そういった場合は、最初に設定した企画の目的や狙いに立ち戻って再考することは大事にしています。これは明瞭なターゲット設定にもつながるため、その点でも非常に重要です。
MZ:今回のDM施策の成果・効果についてお聞かせください。
三好:ビンゴDMに関しては、DM経由の受注率がそれまでの過去最高値である17.5%を大きく上回り、約1.8倍の32.2%となりました。この施策を行う前までは、社内でも「年3回購入した人はもう無理だろう」と諦める空気感も少なからずありました。しかし、今回のDM施策でロイヤルユーザーの方々との関係強化に新たな可能性を見出し、それを実証できたのは成果として非常に大きかったです。一方、ほたてDMに関しても、ほたてのリピート購入率は66%まで増加。クロスセルにも成功して購入単価が約2倍に増えました。顧客の反応率も3.1%から5.6%まで上げることに成功しました。
加えて、実際に本施策を通して、二次元コードを通じたEC注文の数が相当数いたことが確認できました。顧客コミュニケーションやECへの誘導を行うチャネルとしてDM施策の有効性が感じられ、今後の活用の幅が広がりそうです。
残存効果の強みを発揮 継続して効果を発揮した二つのDM
MZ:今回の施策を通して感じた、DM施策ならではの良さや強みはありましたか。
伊東:ビンゴDMは、投函直後からビンゴ参加と商品購入に対して意欲的な声が多数寄せられました。顔写真を掲載したことでお客様とのコミュニケーションのきっかけになり、商品購入につながったという声もコールセンタースタッフから届いています。
また、送付から半年が経っても2~3列そろえた報告をしてくださるといった動きも複数見られました。長期間でも手元に保管していただけることで残存効果にも期待できるDMの強みを改めて感じました。
森山:ほたてDMでも、DMの残存効果の高さは実感しました。これまではDM投函後の1週間以内にレスポンスが集中していました。しかし、今回は1ヵ月間継続的に二次元コードからの遷移でECでの注文が続きました。送付先の最適化やクリエイティブの工夫により、長い期間保存していただけるDMならではの強みを上手く引き出すことができましたね。
MZ:施策を通して気づいた新たな発見は何かありましたか。
三好:ビンゴDMでは、ビンゴのルールをわかりやすく伝えることに腐心しましたが、それでも「やり方がわからない」という問い合わせの連絡も複数いただきました。ただ、この問い合わせ電話をきっかけにコールセンタースタッフとお客様とのコミュニケーションが生まれて距離が縮まり、その後の注文率が上がったのは予想外の結果でした。コールセンタースタッフが質問に答えられるように、事前に運用ルールを細かく決めて準備をしていたことが功を奏しましたね。
DMでは往々にして「わかりやすさ」を求められがちですが、「わからない」ところから始まるコミュニケーションもある。その後の対応も丁寧に設計することが必須ですが、伝えきれないこともきっかけの一つとして捉えられると思いました。
DMを活用して購入促進と同時にファン化促進も目指す
MZ:今後、DM施策をどのように活用したいとお考えでしょうか。
三好:ビンゴDMに関しては、アナログなDMと電話の良さをアナログな遊びであるビンゴという企画でつなぎ、お客様の体験価値と成果を引き上げることができました。一方、ほたてDMでは、アナログなDMとデジタルのECの融合が実現できたので、今回の成功を基に今後も積極的に取り入れていきたいです。
また、DMはお客様の購入の促進に加えて、当社のファン化の促進といった文脈でも役立てることができると考えています。現在のマーケティングでは、「欲しいモノや情報」を「欲しいタイミング」で届けることが求められています。その意味で、手元に紙で届くDMの優位性は依然高いと考えています。お客様から「またおもしろいものが届いてほしい」と期待されるような顧客満足度を高めるようツールとしても活用していきたいです。
特にビンゴDMでは完全なパーソナライズを目指しています。まだ運用面などの課題はありますが、近いうちには実現させたいです。
伊東:ビンゴDMの購入履歴を分析することで新たな購買行動が見えてくる可能性があります。顧客理解を次のDM施策や商品開発に活かしたいと思っています。また、新規顧客や休眠顧客に対しても同様に購買データの分析を行い、新たなビンゴDMの設計・運用にもチャレンジしていきたいです。
森山:今回のほたてDMは、EC流入者の行動データを分析ができるため、今後のDM改善やサイト改善にも活用できるではないかと考えています。今回は初回EC顧客の中でもほたて購入者に絞って商品選定と施策を行いましたが、他の属性で効果が期待できる設計も探っていきたいです。