乗降者数のデータしか取得できていなかった
──本日は鹿児島市交通局の取り組みについてうかがっていきます。市の観光を促進するにあたり、感じていた課題があれば教えてください。
中木屋(鹿児島市交通局):データの収集および活用に課題を感じていました。これまでも乗降データを基に公共交通機関のダイヤ編成や見直しを行っていましたが、工夫すればより多様な種類のデータを集めることができ、活用の用途も広げられるのではないかと思ったのです。
中木屋(鹿児島市交通局):たとえば、駅を利用する人の属性や消費動向がわかれば、我々が提供する交通広告の価値を高めることができます。また、それらのデータをオープンデータ化し、地元企業が自社のマーケティング活動で活用できるようにしたいとも考えていました。
──今うかがった課題を解決するため、鹿児島市交通局は2022年11月に三井住友カードの「stera transit」を導入したそうですね。stera transitとは、どのようなサービスなのでしょうか。
氏原(三井住友カード):stera transitは、クレジットカードやプリペイド、デビットカード、スマホのタッチ決済機能を使って交通機関の利用や運賃の支払いができるようにするサービスです。海外でこの仕組みが普及している国は多く、グローバルスタンダードになりつつあります。旅行先である日本でも使いたいと思う方は多いはずです。
乗降者数に属性や消費データが紐づいた
──stera transitを導入することにより、データ活用の文脈ではどのようなメリットが享受できるのでしょうか?
登坂(三井住友カード):のちほど詳しく説明しますが、stera transitのインフラを整備いただいた場合、利用者の電車やバスによる移動と決済行動から、沿線における人々の行動を詳細に把握できるようになります。
登坂(三井住友カード):鹿児島交通局様にはstera transitを先駆けて導入いただきました。中木屋さんがおっしゃった「データ活用の幅を広げたい」という課題に対し、私たちが提案したのはstera transit で捉えたデータを「Custella Analytics」で分析するプランです。
──三井住友カードが提案したプランに沿って分析を行った結果、どのような示唆が得られたのでしょうか? 具体的な分析の内容とあわせてお聞かせください。
宮本(三井住友カード):「いつ、どの駅を何名が利用しているか」など、時間や場所の情報を含んだ乗降データは、鹿児島市交通局様が既にお持ちでした。このデータにクレジットカードのデータを掛け合わせることで「いつ、どの駅で、どのような人が乗降したか」という利用者の属性を含めた分析が可能になったのです。
宮本(三井住友カード):たとえば、カードデータが持つ居住地の情報を用いると、利用者が居住者なのか観光客なのかがわかります。そこで対象を観光客に絞って分析すれば「どのタイミングでどのエリアの観光需要が高まるのか」を定量的に把握することが可能です。
同様に、訪日外国人の利用についても、カード発行国の情報を参照すれば、具体的にどの国の人たちがどのタイミングで鹿児島市に来ているかわかります。たとえば欧米の観光客の場合、クルーズ船が来航するタイミングで鹿児島市内におけるカード利用が活発になるとわかりました。クルーズ船の来航日はかなり先まで決まっているため、その日程に合わせて施策を準備することができます。
ダッシュボードで乗降×決済データの即時分析環境を構築
宮本(三井住友カード):もちろん観光客だけでなく、市電・市バスを日常的に利用している居住者を対象とした分析も可能です。今回は交通機関の利用動向を居住者の年代別に分析したところ、平日の出社時間や帰宅時間に世代間の差が見られました。このような属性別の利用実態を精緻に把握し、市電広告の適正化や世代別のニーズに応じた割引サービスの設計に活用することで、沿線の消費活性化が期待できます。
中木屋(鹿児島市交通局):利用者の国籍や居住地がわかるようになった点は非常にありがたいです。これまでは乗降人数しか把握できていませんでしたから。交通機関や駅の乗降者数に加え、乗降者の属性を広告代理店に提示することで、広告主のターゲットに近い媒体を提案できると考えています。
──今回三井住友カードは、分析結果をレポートとして提供するだけでなく、ダッシュボードを構築し、鹿児島市交通局が乗降データやキャッシュレスデータをリアルタイムに閲覧できるようにしたそうですね。ダッシュボードで閲覧可能なデータの詳細と、活用方法を教えてください。
登坂(三井住友カード):鹿児島市交通局様に相談した結果、ダッシュボードは大きく四つの画面で構成しています。一つ目は乗降データ、つまりstera transitを利用した人の量を駅別・時系列順に確認する画面です。
登坂(三井住友カード):二つ目は「乗降データ×日本人データ」の画面で、どのような年代・家族構成・年収の人が、いつ、どれくらい乗降しているかが確認できます。三つ目は「乗降データ×外国人データ」で、どの国で発行したカードを持っている人が、いつ、どれくらい乗降しているかがわかる画面です。
登坂(三井住友カード):四つ目の画面では、stera transitを利用して移動した人が、他にどのような業種でクレジットカードを利用したかがわかります。たとえばstera transitで天文館に移動した人が、近辺のショッピングセンターでいくら使ったかがわかるのです。
数万人規模のデータ処理業務を効率化
宮本(三井住友カード):乗降データとクレジットカードの属性情報や消費データを掛け合わせると、このように多くの分析軸が生まれます。これを実際にレポート化しようとすると、作業工数がどうしても膨らみますし、ミクロな動きも膨大な情報に紛れて見逃がしてしまう可能性があります。
しかし、このようにダッシュボード化されていると、多くの要素をクロスした状態のデータをワンクリックで見られるため、担当者自身が細かな部分を深掘りしていくことができます。
中木屋(鹿児島市交通局):見たいデータを一発で閲覧することができるため、非常に驚きました。鹿児島市の場合、1日あたりの乗降者数が市電で約3万人、市バスで約1万6,000人にも上ります。膨大なデータを抱えているため、これまでは担当者がデータの処理や加工に長い時間をかけていました。ダッシュボードは業務効率化にもつながっています。
運賃割引キャンペーンなど新たな施策で利用者増へ
──鹿児島交通局では、今回の分析で得られた示唆やダッシュボードを活用し、今後どのようなことにチャレンジしたいとお考えですか?
中木屋(鹿児島市交通局):多くの人にとっては、移動すること自体というより、移動先での活動に目的があるはずです。今後はstera transitの導入とダッシュボードにより、乗降前後の人々の活動を把握することで、市電や市バスの利用者数増につなげたいと考えています。
宮本(三井住友カード):stera transitを導入すると、たとえ路線がつながっていなくてもサービス連携機能を活用いただけます。たとえば、タッチ決済機能で鹿児島市内の電車やバスを利用した方が、その後に空港行きのリムジンバスでもタッチ決済で乗降した場合、その方の利用額を割引するキャンペーンがstera transitなら実現可能なのです。
また、タッチ決済で交通機関を利用した方が周辺の商業施設および観光施設を利用した場合に、その方の運賃が割引されるような施策や、あらかじめ設定した上限運賃を超える移動が発生した場合に、超過分の金額を割引するような施策も登場しています。stera transitの導入と利用が広がるにつれ、施策の幅はさらに拡充していくでしょう。同時に分析ニーズも多様化していくと思います。
中木屋(鹿児島市交通局):今後はタッチ決済で乗降する方の分母を増やし、ビッグデータとしての価値を高めていきたいですね。2024年3月には市バスにもタッチ決済を導入するため、活用可能なデータはさらに集まると見込んでいます。
全国の交通機関にクレジットカードで乗れる未来
──三井住友カードは、今後stera transitやCustella Analyticsを通じてクライアントにどのような価値を提供していきたいですか?
氏原(三井住友カード):鹿児島市交通局様とのお取り組みをモデルケースとしつつ、今後より多くの自治体様や交通事業者様にstera transitを導入いただけるように尽力したいです。
氏原(三井住友カード):移動と属性、消費のデータを掛け合わせることで、観光振興や住民サービスの向上に役立てていただけると思います。将来的にはクレジットカードで日本全国の鉄道やバスに乗ることができる社会をつくり上げていきたいです。
宮本(三井住友カード):stera transitを導入される交通事業者様は着実に増えており、今後も引き続き増えていくことが予想されます。将来的には交通事業者に留まらず、沿線の自治体や企業を含めた取り組みが求められるでしょう。そのような中で、我々の提供するサービスが社会にもたらす価値はさらに向上すると考えています。
登坂(三井住友カード):今回のように、分析結果のレポーティングとダッシュボードの構築をセットで提供することは、私たちにとって初めての試みでした。鹿児島交通局様の例をモデルケースとして、今後もより多くのクライアント様に同様のプランを提案していきたいです。
私たちの仕事は、データ分析の支援によって事業者様が描く未来を実現させていくことです。鹿児島市交通局様が目指す未来を実現できるよう、今後も取り組んでいきたいと思います。