バイアスを壊すアイデアを考え、実行する
イノベーションを起こすステップの2つ目が“バイアスを壊すアイデアを思いつく”ことだ。
新たな果汁飲料の開発に際し、塚田氏はオフィスで果汁飲料のパッケージを隠して飲んでいる社員を目にした。そこから、「大人はジュースを飲まない、ジュースは子どもだけのもの」というバイアスを見つけ、ジュースは子どもだけのものではないと考えることができた。
実際に調査を通して3~40代の男性もジュースを飲みたいというニーズを確認し、具体的にバイアスを壊すアイデアを考えていったという。結果、寒色をメインにしたシンプルなパッケージデザインに加え、スチール製の広口ボトル缶の起用に至った。
広口ボトルは当時、製缶業者が開発したばかりの新しいアイテムだった。その新規性と、中身が見られることのない安心感、さらにパルプが入ったジュースを広口でごくごく飲めるという体験が、これまでにない果汁飲料につながると考えたという。
しかしイノベーションを起こすステップの最後の“実行”にあたる、発売までの道のりは険しいものだったという。新規容器と新商品という未知の組み合わせでは売れるかが予想できないため、既存ブランドでの容器展開を優先する会社判断がくだされた。
そこで、塚田氏は「まずは飲料が売れることを証明したらいい」と考え、一部地域でテスト販売を実施。夏季に販売したところ、売上開始3週目で人気スポーツ飲料を追い抜き、ポテンシャルを示した。そこで翌年、全国販売に至った。既存ブランドでの広口ボトル展開はなくなった現在も、その果汁飲料は広口ボトルで販売され続けている。
抹茶市場のバイアス打破から始まったCuzen Matcha
塚田氏はWorld Matchaにおいても、この3つのステップを活用している。Cuzen Matcha開発のきっかけは、米国セレブたちのトレンドだったという。当時、米国では抹茶が健康にいいと注目され始めていたが、一方で問題もあった。
抹茶と聞けば、粉末を連想するだろう。なぜ抹茶が粉かというと、茶葉は水溶性ではないため攪拌する必要があるからだ。しかし粉にしてしまうと、酸化や劣化が早まる。また湿気を帯びダマになると攪拌されにくくなり、おいしくなくなってしまう。
「粉であるが故に、抹茶を楽しめる人が限られてしまっていたのです」(塚田氏)
そこで塚田氏は、抹茶は粉でなければならないのか?という問いを突き詰めていった。
ヒントとなったのは、抹茶文化の最盛期・安土桃山時代だったという。
「千利休が抹茶文化を広めている時代は、石臼を使いその場で碾茶を挽き抹茶にしていたはずです。粉の状態で売られるようになったのは、つい最近。冷蔵保管や製粉技術の発達によるものです」(塚田氏)
抹茶の流通に際して粉状でなければならないという考えは、抹茶市場のバイアスだと塚田氏は結論付けた。